自治体職員の読書ノート

自治体で働くソーシャルワーカーが、読んだ本を紹介します。

【608冊目】松下啓一「市民協働の考え方・つくり方」

市民協働の考え方・つくり方 (市民力ライブラリー)

市民協働の考え方・つくり方 (市民力ライブラリー)

「協働」に関する本はいろいろあるが、概して理念的で抽象的な、「市民」を過度に美化したり、無条件的に期待するものが多かった。いわば「理念としての協働」「理想としての協働」論である。それに対して本書は、「すでに協働が行われている現実」を前提としたうえで、協働がうまくいくためのノウハウや考え方、注意すべき点を具体的に挙げるものとなっている。

確かに、住民とのパートナーシップやNPOとの連携は、周りを見ていてもここ数年で一気に進んだ感がある。理想論に引っ張られた面もあるが、地に足のついた取り組みがどの自治体でも少しずつ重ねられてきている。「協働」は「先進自治体での特別なコト」から「どの自治体でもみられる当り前のコト」に変わりつつある。

そうなってくると、安易な理想や理念は協働の現場では役に立たず、現実を踏まえた「協働論」が必要となってくる。本書は、そうしたニーズに応えようとするものとなっており、現場で起こりがちな誤解や齟齬について整理した上で、地に足のついた「あるべき協働論」を展開している。

特になるほどと思ったのは、「協働には『一緒にやる協働』と『一緒にやらない協働』がある」という指摘。確かに、「協働」は、その字づらをみても「一緒にやらなければならない」と思ってしまいやすい(それが行政の「余計な手出し」につながったり、あるいは「一緒にやっていないからあれは協働ではない」と線引きをしてしまう)。しかし、住民活動やNPO事業は、必ずしも行政と「共に」やるものばかりではなく、むしろ別々にやったほうが実が挙がることも多い。そして、そうした活動も、公共利益の実現を担うという意味では「協働」の一部なのである。無理して一緒にやる必要はないのである。

著者は自治体職員の出身で、NPO活動の経験もあるとのこと。両方の視点を持ち合わせているからこそ、議論に説得力がある。そして、特筆すべきは文章のうまさ、とりわけ絶妙なユーモアのセンス。分量は非常にコンパクトだが内容はぎっしり詰まっており、現時点での「協働の最前線」を概観するためには最適の一冊。