【2803冊目】菊地大樹『日本人と山の宗教』
山は異界。山中他界。
神は山から里にやってくるのであり、人が山に入る時は、それなりの儀式や儀礼が必要。
これまで、主に民俗学において、山はそのように捉えられてきました。
また、山は修験道の修行の場でもあり、修験者、あるいは山伏と言われるその人たちは、異界である山の中で、人智を超えた能力を身につけると言われています。
本書は、そうした従来の「山中異界観」「山岳信仰観」に大きく修正を迫る一冊です。
著者が注目するのは、仏教の存在です。
もともと修験道は道教や仏教、日本古来の信仰が混淆したものとされていますが、その中で、仏教の影響は、それほど大きなものとは考えられてこなかったように思います。
しかし著者は、そもそもいわゆる「山の宗教」自体、日本固有のものではなく、中国仏教における山林修行の影響を大きく受けていると指摘します。具体的には、奈良時代に日本にやってきた渡来僧が、大陸の山林修行を日本に紹介し、導入したと見ているのです。
また、山が一種の聖域、外界から隔絶した場所だった、という考え方にも、著者は疑問を呈し、山林寺院というものの存在を挙げます。
山林寺院とは、いわば山の宗教におけるベースキャンプとなる場所ですが、その多くは山の頂上などではなく、山の裾野や登山口に設けられていたというのです。
さらに、個々の山林寺院も、孤立していたのではなく、中央から地方に広がる仏教ネットワークのハブとして機能していました。
本書には他にも、木の伐採を巡る里の人々と行者たちのバトルや、山全体を法華経に見立て、山を巡ること自体を法華経修行とする風習など、山の宗教をめぐるさまざまなエピソードが取り上げられています。
ややマニアックなテーマではありますが、修験道や柳田國男の山人論などに興味のある方は、別の視点を得るという意味で、一読してみると良いと思います。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
#読書 #読了