【1896冊目】島田荘司『斜め屋敷の犯罪』
「新本格」ムーブメントは、ここから始まった?
島田荘司、初期の代表作。講談社ノベルズの独特のブックデザイン、二段組みのレイアウトが懐かしいが、実は2008年に出版された「改訂完全版」なので、これは単に私がミステリ読みをサボっていたというだけのこと。ちなみに初版の刊行は1982年だから、なんと30年以上前の作品なのだ。著者は「のちの新本格ムーヴメントは、最果てのこの家の傾きから始まった、かもしれない」と書いているが、むしろ後のブームをはるかに先取りした一冊というべきだろう。
「御手洗潔モノ」第2作だが、名探偵はラスト3分の1くらいでようやく登場、それまでは「斜め屋敷」の人間模様や、2度にわたる殺人事件にまつわるあれやこれやが続く。それは言い換えれば、全体の3分の2にわたって繰り広げられる複雑怪奇な事件が、ラストで一気に解きほぐされる、ということだ。
正直言って、真犯人はそれほど意外ではないし、トリックはアホみたいにアクロバティックで現実味に欠ける。だが、それも込みにして、本書は「パズルに徹する」という意味で、やはり新本格のはしりなのである。それに、丸谷才一が書いていたように、「雰囲気を楽しむ」という点では、本書はまさに本格推理の醍醐味が味わえる。床の傾いた「斜め屋敷」、雪に閉ざされた事件現場、あやしげな「ゴーレム」(そういえば『ネジ式ザゼツキー』にもゴーレムがでてきた)に、いずれもひと癖ありそうな登場人物……。その香気を楽しむことに徹したほうが、本書は楽しめるかもしれない。