自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【2693冊目】宮﨑雅人『地域衰退』


最初に、ギョッとするデータが示される。


この20年間で、もっとも人口が減ったのは、奈良県川上村と北海道夕張市49.0%。川上村は労働力人口63.2%減少している。人口減少数では、福岡県北九州市49,479人、福島県いわき市38,671人。同じく20年間で、53市町村で病院数がゼロになり、21市町村で医師数がゼロになった。一方、空き家率では、 2018年時点で山口県周防大島町30.0%、鹿児島県肝付町26.1%などとなっており、上位20位すべての自治体で2割を超えている。


本書はこうしたデータを踏まえて、日本中で起きている地域の衰退のメカニズムを分析した一冊だ。その内容を見ると、やはり炭鉱などの旧産業や、工場の海外移転などによる製造業の衰退が目立つ(そういえば先日アカデミー賞を受賞した映画『ノマドランド』も、企業城下町の閉鎖によって住む場所を失った女性が主人公だった。日本でもアメリカでも、そのあたりの事情は似通っているらしい)。


観光事業に転換を図ろうとした自治体でも、うまくいっていないところが多い。財政破綻した夕張市だけでなく、小樽市のように古くから観光名所として知られる自治体でも衰退は続いている(ちなみに小樽市の人口減少数は20年間で35,341人、全国3位である)。


こうした状況を打開しようと国によって提唱されているのが、農業や林業の大規模化など「規模の経済」の導入だ。しかし、著者はさまざまなデータをもとに、こうした大規模化はかえって地域の持続を困難にするという。むしろ大事なのは、小規模で多角化した「範囲の経済」なのである。


とはいえ、これは村のなかに閉じこもることではない。著者は地域が衰退する理由について「地域外へ生産物を移出し、地域外から所得を得る基盤産業が衰退した地域は、衰退することが避けられない」(p.89)と言う。では、地域の基盤産業をどのようにつくり、守っていけばよいのか。


そのためのアイディアが本書にはいくつか示されているが、いずれにせよ大事なのは、地域が自ら考え、作り出すこと。特に、国による誘導に安易に乗ることの危険性が、本書では何度も強調される。テクノポリス構想も観光産業も市町村合併も、失敗したって国が責任をとってくれるわけじゃない。結局、わたしたちの「地域」は、わたしたちが守っていくしかないのである。そのことを忘れた自治体には、衰退し、消滅する道しか残されていないのだ。


最後までお読みいただき、ありがとうございました!