【1480冊目】ティム・バートン『オイスター・ボーイの憂鬱な死』
- 作者: ティム・バートン,狩野綾子,津田留美子
- 出版社/メーカー: アップリンク
- 発売日: 1998/12
- メディア: 単行本
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ティム・バートンってあのティム・バートン? って思われるかもしれないが、そう、あのティム・バートン。本書は『シザーハンズ』『ナイトメア・ビフォア・クリスマス』『チャーリーとチョコレート工場』の映画監督、奇才ティム・バートンが描いた絵本短編集である。
ティム・バートンといえば独特のコミカルでグロテスクな雰囲気が特徴的だが、本書の画も、なんともいえない「グロかわいさ」満載で期待を裏切らない。ちなみにグロかわいさでいえば、最新作『フランケンウィニー』のツギハギ犬スパーキーがかなりいいセン行っているが、本書に出てくるキャラクター「オイスター・ボーイ」「ロボット・ボーイ」「有毒少年ロイ」「ガラクタ・ガール」などもかなり強烈。
しかもそこにシザーハンズ並の「出自の悲哀」が絡み、表情やセリフがユーモラスなだけに、その哀れさが余計に身に沁みる。例えば表題作「オイスター・ボーイ」では、幸せな新婚夫婦が願い叶って子を授かる……のだが、その子供は「海草や塩のにおいがする」頭部がカキで胴体が人間のオイスター・ボーイ。当然のように、両親は彼を避け、疎んじる。友達もみんな気味悪がって彼を避けるから、オイスター・ボーイはいつもひとりぼっち。
しまいには(たぶん)インポテンツ治療のため「カキを食べて精力を高めてはどうでしょう」と医者に言われ、パパがナイフをもって眠っている息子に忍び寄る。
「抜き足差し足 忍び寄るパパの影 額には汗 唇には―嘘を浮かべて「息子よ、お前は幸せかい? ひょっとして 天国の夢を見てるのか? 死にたいと思ったこともあるのだろう?」
そしてパパは息子を持ち上げ、その「身」をごくり! ラストは息子を埋葬してベッドに戻った夫婦の会話。「さあ一発いってみよう」「でも今度は、女の子ができますように」
救いがないといえば、救いがない話ばかり。しかもそれが「グロかわいい」ユーモラスな絵柄と、淡々とした文章で綴られる。エドワード・ゴーリーにどこか似た空気感の画。深みはたぶんゴーリーのほうに軍配があがるだろうが、キャラクターの造形はさすがにティム・バートンが一枚上か。
他にも「両眼に釘がささった男の子」「針やま女王」等々、まあよくこんなにいろいろ出てくるものだ。個人的にはオイスター・ボーイに匹敵する哀しい主人公「ミイラ少年」、アンモニアと石綿と煙草の煙が大好物の「有毒少年ロイ」が良かった。いずれアニメにもしてほしい。
最後にひとつだけ、ケチをつけたい。本書は訳者の名前が表紙に載っていない(奥付に小さく出ているだけ。)。プロフィールもない。訳自体はリズミカルで口ずさみたくなるほど素晴らしいのに、これはどういう扱いなのか。せっかくいい仕事をしているのだし、ちゃんと表紙に名前を出してフィーチャーしてあげるべきだ(ちなみに翻訳は狩野綾子、津田留美子のおふたりだそうだ)。amazonのリンクでは、さすがにちゃんと名前が出てくるので安心しました。