【2478冊目】川上未映子『ヘヴン』
苛め(著者は「いじめ」でも「イジメ」でもなく「苛め」と書く)を扱った小説ということは知っていた。たしかに、かなりひどい苛めの描写が頻繁に登場する。特に、実際に苛めを受けていた経験のある人にとっては、かなり読むのがしんどいかもしれない(決して無理しないで!)。
とはいえ、本書はたんなる「苛めはいけません」というだけの本ではない。苛める側の無神経な残酷さをこれでもかと描くことで、「僕」や同じように苛められているコジマのもつ「弱さの強さ」あるいは「弱さの美しさ」のようなものが、不思議と浮かび上がってくる。
苛める側の百瀬が語る徹底的な反・善悪論もまた、異様な説得力があって忘れがたい。ただ、百瀬や苛めグループのリーダーである二ノ宮らは、「僕」がラストで感じたような世界の美しさを、生涯感じることはないように思う。彼らのエゴイズムに満ちた強さは、そうした美しさを感じる精神と引き換えに得られるものではなかろうか。たぶん連中は、それまでの人生のどこかで、悪魔とそんな取引をしてきたのである。