【2468冊目】柏木亮二『フィンテック』
金融の世界に、今とんでもないことが起きているらしい。電子マネーからスマートフォンバンキング、クラウドファンディングにP2Pレンディング、人工知能による与信モデルに仮想通貨まで、フィンテック=ファイナンス+テクノロジーの最前線を総覧する一冊。もともとは2016年の刊行だが、基本的な部分はおそらく今でも通用する。
キーワードは「イノベーションのジレンマ」と「破壊的イノベーション」。いずれもクレイトン・クリステンセンという人の造語である。クリステンセンによれば、イノベーションにはこれまでの延長線上に生まれる「持続的イノベーション」と、これまでとまったく違ったところから誕生する「破壊的イノベーション」があるという。破壊的イノベーションの多くはベンチャー企業から生まれ、最初はその質の低さゆえ巨大企業からは無視、軽視されるのだが、巨大企業からは相手にされない層をターゲットとして取り込み、勢力を拡大して巨大企業を飲み込んでしまう。
金融で言えば、低所得層向け、ベンチャー企業向け、あるいは新興国向けのサービスがこれに該当する。個人と個人のお金の貸し借りをマッチングするP2Pレンディング、ベンチャー企業の資金をファイナンスするクラウドファンディング、銀行口座がなくても送金や決済ができるケニアのエムペサなどが該当する。
既存の金融機関にとっては脅威だろうが、それまで無視してきた層を支えるサービスが、大手の金融機関を飲み込んでいくのは、傍から見ていて痛快だ。そのゴールとなるのは、誰もが金融サービスの恩恵にあずかれる「金融包摂」(フィナンシャル・インクルージョン)。銀行中心の金融システムとはまったく違う世界が、すぐそこに開けているのである。