自治体職員の読書ノート

自治体で働くソーシャルワーカーが、読んだ本を紹介します。

【2467冊目】川北稔『8050問題の深層』

 

8050問題の深層: 「限界家族」をどう救うか (NHK出版新書)

8050問題の深層: 「限界家族」をどう救うか (NHK出版新書)

  • 作者:川北 稔
  • 出版社/メーカー: NHK出版
  • 発売日: 2019/08/30
  • メディア: 単行本
 

 

「ひきこもり」「8050問題」の現状を、データ、具体例、問題点、解決策にわたり、コンパクトかつバランスよく捉えた一冊。福祉関係者にも、当事者やその家族にも「最初の一冊」としておススメしたい。

言うまでもなく「8050問題」とは、80代の親と50代の(無職だったりひきこもっていたりする)子どもの組み合わせをいう。だがもちろん、問題は今になって生じたわけではない。それまで何年も何十年も家族の中で抱え込んできた問題が、親の高齢化によって限界に達し、外にあらわれざるを得なくなる臨界点が「8050」なのだ。

そもそも、本来は子に養われるべき存在である70代、80代の高齢者が、部屋に閉じこもられ、場合によっては暴力を振るわれながら、壮年の子を養っているという状況自体が尋常ではない。その背景にあるのは「いくら高齢になっても、たとえ子どもから自分には対応できない暴力を受けていても『親であることを降りられない』心理である」(p.19)と著者は指摘する。ちなみに近隣諸国との比較でみても、日本は「老親が子どもを支える規範が強い国」に分類されるという(p.165)。

かつての日本であれば、そもそも家族は今ほど閉鎖的ではなく、地域共同体に組み込まれた存在だった。それが戦後の高度成長期にあって核家族化が進み、いわば家族のカプセル化が進行した。そこでは親は子に、子は親にそれぞれ強く依存せざるを得ない。いわゆる「親子共依存」であるが、本書はそこから、依存を断ち切るのではなく、むしろ依存先を増やすことを提案する。熊谷晋一郎氏が提唱する「依存先の分散としての自立」という概念がそのベースにある。

従来の引きこもり支援は「家族→本人」の順に支援を行っていた。だが本書は、個人を単位として多様な支援を組み合わせる「包括的支援」を提唱する。一般にひきこもり支援として言われがちな「就労支援」はその一部にすぎない。経済的支援、メンタルヘルス支援から趣味やボランティアによるつながりまで、多様な支援=依存先のネットワークを、本人を中心に形成していく。たくさんの支援先があれば、ひとつがうまくいかなくてもさほど気にする必要はない。趣味のつながりをきっかけに社会参加が進むケースもあれば、家の中にこもっていても経済的に自立できるということだってある。

ただし、こうした支援には、個別の支援先と本人や家族をつなげるコーディネーター役が必要だ。そこで登場するのが「伴走型支援」というあり方だ。本書では、NPO法人オレンジの会で伴走型支援を展開する山田孝介氏による事例が紹介されている。実際のひきこもり支援のリアルな現場を伝えてくれる、たいへんに示唆に富むレポートだ。