自治体職員の読書ノート

自治体で働くソーシャルワーカーが、読んだ本を紹介します。

【2366冊目】アンドリュー・パーカー『眼の誕生』

 

眼の誕生――カンブリア紀大進化の謎を解く

眼の誕生――カンブリア紀大進化の謎を解く

 

 地味なタイトルだが、書かれていることはとんでもなく刺激的かつ革命的。文字通り「見える世界が変わる」一冊だ。

硬い殻をもつ貝類。色を変えて身を隠す魚。毒々しい模様をもつ昆虫。自分を大きく見せて相手を威嚇する鳥。多くの生物がもつこうした特徴は、ひとつの「機能」が前提になっている。「視覚」である。

当たり前といえば当たり前のことだろう。だが、この「当たり前」と進化の大爆発をみごとに関連付けたのは、どうやら本書の著者がはじめてらしいのだ。まさにコロンブスの卵、あるいは「目から鱗」というべきか。ベタだけど。

カンブリア紀の進化大爆発。スティーヴン・ジェイ・グールドがかの名著『ワンダフル・ライフ』で紹介した、バージェス頁岩から発掘された奇妙な生き物の数々が有名だが、その後の研究で、実はこの時期、体内の構造はそれほど大きく変化しておらず、外形ばかりが一挙に多様化したことがわかっている。もっと具体的に言えば「現生するすべての動物門が、体を覆う硬い殻を突如として獲得した」(p.59)のだ。内骨格によって体の形を変えるわれわれとは違い、当時の動物のほとんどは「外骨格」つまり外側の覆いの形を変えることで、さまざまな形態をとることができる。その起点となったのが、このカンブリア紀だったのだ。

この進化大爆発のトリガーを引いたのが「視覚」を備えた種の登場だった。栄えある役目を担ったのが、かの三葉虫である。光感受性をもつ部位が複雑化し、神経が増え、突如として三葉虫に「複眼」を持つ種が出現したのだ。そして世界は、はじめて「見られるもの」になった。それまで誰にも「見られなかった」動物たちは、いきなり「見られる」ようになったのである。

この影響はまさしく革命的だった。視覚を備えた三葉虫は、それまでより遠くにいる餌を発見することができ、自分を狙う捕食生物からも逃れられるようになった。この「独り勝ち」を許さないためには、周囲の生物もまた、身を守る殻を備え、見えづらいように色を変え、そして自らも「視覚」を備える必要があった。

驚くべき発見である。なぜカンブリア紀に進化の「大爆発」(外形上の)が起きたのかという古生物学上の巨大な謎が、魔法のように解き明かされたのだ。そして、このカンブリア紀に生まれた生物の多様性は、ほとんどそのまま現在の地球における生命の多様性のルーツになっている。「視覚」があってはじめて、われわれ人類を含めた地球上の生物多様性は存在するようになったのだ。旧約聖書の冒頭、神は「光あれ」と言ったとされている。だが本当は「視覚あれ」だったのかもしれない。光があってもそれを見ることができなければ、何にもならないのだから。

 

 

ワンダフル・ライフ―バージェス頁岩と生物進化の物語 (ハヤカワ文庫NF)

ワンダフル・ライフ―バージェス頁岩と生物進化の物語 (ハヤカワ文庫NF)