【2357冊目】伊坂幸太郎『魔王』
前から思っていたのだが、この人の小説は変わっている。ヘタなようでうまい。不器用なようで巧妙だ。不自然なところが、妙に自然にハマる。
ファシズムの危険を「一列に並んだスイカの種」で表すところとか、宮沢賢治の詩の使い方などはベタといえばベタだけど、あえてベタのままにしているのがかえって良かったのかもしれない。「思っていることを他人の口から喋らせる」なんて超能力も、扱い方が難しいところだけど、さらりとうまく使いこなしている。
ほかの作品同様、スタイリッシュといえばスタイリッシュなのだけど、本書はそこに「自分で考えず流されること」への著者の本気の危機感が効いていて、そこが読ませる。だいぶ前の作品ではあるが、今まで読んだ伊坂作品のなかではベストかもしれない。