自治体職員の読書ノート

自治体で働くソーシャルワーカーが、読んだ本を紹介します。

【2348冊目】夏目漱石『道草』

 

道草 (新潮文庫)

道草 (新潮文庫)

 

 

先日読んだ『中年クライシス』で言及されていた一冊。漱石自身とも思われるインテリの健三を軸に、金の無心に来るかつての養父母、妻の父らとの関係が一方に、妻との関係がもう一方に描かれている。

話が盛り上がるのは妻が出産する前後くらいで、ほとんどの部分は金の無心に来る連中とのやり取りや、妻との会話で成り立っている。妻との会話も冷え切ったもので、健三は何かにつけて妻を馬鹿にして、大事なこともほとんど話さない。妻は妻で夫の態度にあきれ果て、屁理屈ばかり押しつけてくる夫に嫌悪さえ抱いているように見える。

『中年クライシス』同様、本書も大学生の頃に読んだが、その時は正直あまりおもしろくなかった。今読むと、冷え切った夫婦間の会話などにゾッとするようなリアリティがあって、とても他人事ではない。特に、健三には自分と似た部分も多く、読んでいて刺さる部分の多い小説であった。

漱石自身は家庭内では暴君だったらしいが、本書では理屈ばかりひけらかす健三を冷ややかに眺めており、むしろ妻に対して同情的だ。インテリの夫がかえって「妻は夫に従うべき」といった古い考えを持ち続けており、一方の無学で実際家の妻のほうが「尊敬してほしければ尊敬できるだけの振る舞いをしろ」と夫に対して感じているところが面白い。夫もそれをうすうす感じているが、いざとなると行李の紐ひとつ結ぶことはできず、借金を申し込んでくる連中をうまくあしらえずに、結局金を渡してしまう。

要するにこの健三という男、頭でっかちで生活能力や社会性はいまひとつ。そのくせ妻にはやたら虚勢を張って威張るからタチが悪い。まことに器の小さな男なのである。しかし、ダメ男ほどよく威張る。部下がいれば部下に威張り、立場が下の取引先や業者に威張る。本書の健三のように、外では威張れる相手がいないと、家に帰って威張り散らすのだ。私も気を付けないと。