【1015冊目】宮部みゆき『あんじゅう』

- 作者: 宮部みゆき
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2010/07
- メディア: ハードカバー
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副題は「三島屋変調百物語事続」・・・・・・ってことは「事始」があるわけで、それがどうやら前作にあたる『おそろし』であるらしい。あれ? 『おそろし』って読んだっけ?・・・・・・なんてことを思ったのが、実は四つあるちょっと長めの短編の、二つ目を読み始めたあたり。言い訳するわけじゃないが、それほどこの本は単体でも違和感なく楽しめる。舞台は江戸神田の袋物屋、三島屋。主人公のおちかは、いろいろないきさつの末、そこで行儀見習いとして働くかたわら、世にも不思議な「百物語」の聞き集めをすることになる。
四つの短編は、どれをとっても極上品。宮部みゆきの一番いいところが頭からシッポまでたっぷり詰まっているアンコたっぷりタイヤキ本だ。「逃げ水」での子どもを描くうまさ。「藪から千本」で容赦なく書かれる人間の悪意の深さ。「暗獣」に登場するくろすけの切なさ、「吼える仏」に見る人の業の哀しさ。よく考えると、筋書き自体は暗くて救いのないものが多いのだが、ユーモラスな展開とやわらかな文章、ユニークな登場人物(個人的には最後に出てくる行然坊が面白かった)がそれをあまり感じさせない。う〜ん、すごい。
さらに物語に「丸み」と「温かさ」を与えているのが、ふんだんに挿入されている南伸坊の挿絵。特に「くろすけ」のかわいらしさは絶品(こちらの対談も読まれたし)。もともとは読売新聞連載時の絵なんだが、単行本にも収録するとはめずらしい…が、これは大正解。挿絵の力というものを思い知らされる。これはもう宮部みゆき・南伸坊の合作と言うべきだろう。そういえば、昔読んだ児童文学では決まって「挿絵」が独特の存在感を放っていたものだった。大人向けの小説にも、もっとそういうのがあっていい。