【2188冊目】大澤真幸『思考術』
「考えることは書くことにおいて成就する」
考える。そのために、読む。
著者は、書物を「思考の化学反応を促進する触媒」であるという。書物は、みずからの思考を深めるためのツールなのだ。だが、漫然と読んでいるだけでは、ショーペンハウエルも言うように、「書物に代わりに考えてもらう」ことになってしまう。では、思考のために書物を読むには、どのようにすればよいのだろうか。
本書は、著者自身がそのことを、具体的な書物の読み解きをもとにやってみせた、いわば模範演技集である。それも「社会科学」「文学」「自然科学」の3とおり。社会科学では「時間」、文学では「罪」、自然科学では「神」が、それぞれテーマである。
どれもなかなか面白いが、では具体的に自分がどうすればよいのかというと、なかなか難しいものがある。体操の初心者がいきなり内村航平の演技を見せられて「じゃあ、やってみなさい」と言われているようなものだ。具体的なノウハウに関しては、むしろ序章の「思考術原論」が役に立つ。
そして、終章では「書くこと」について書かれている。これが終章に置かれている理由は、冒頭に掲げた言葉に尽きる。さらに言えば、書くことによって思考は深まり、実体化するのである。このことは、著者のレベルとは数段違うが、この「読書ノート」を書いているとよくわかる。読んでいるうちはよくわからなかった本が、それでもどうにか書いているうちに「ああ、この本はこういうことを書いていたのか」と気づくという経験は、少なくない。
よく「インプット」とか「アウトプット」というが、本書を読むと、インプットは単なる情報の取り込みではなく、アウトプットも単なる情報の吐き出しではないことを実感する。インプットそのものが思考に寄り添っているのであり、アウトプットそのものが思考を形成しているのである。本書は、そうした思考のダイナミズムを知るための一冊なのだ。