hachiroetoのものぐさ遊読帖

自治体職員。仕事は福祉系。読書は雑食系。

【476冊目】重松清「いとしのヒナゴン」

いとしのヒナゴン〈上〉 (文春文庫)

いとしのヒナゴン〈上〉 (文春文庫)

いとしのヒナゴン〈下〉 (文春文庫)

いとしのヒナゴン〈下〉 (文春文庫)

市町村合併で揺れるさなか、謎の類人猿「ヒナゴン」が目撃された比奈町。そこに新設された「類人猿課」にひょんなことから勤めることになった「ノブ」こと石井信子の視点から、比奈町の行く末をコミカルに描いている。

いや、すごく面白かった。とにかく登場人物があったかくてユーモラス。特に比奈町長の「イッちゃん」が良かった。元は「イナゴのイッちゃん」で鳴らした町一番の悪ガキ。暴走族あがりで、町長になっても「気合上等」で突っ走る。そのためトラブルが絶えず、ついにリコールまでされてしまうが、その人情味あふれるキャラクターはめちゃめちゃカッコ良い。また、イッちゃんの子分格で町の総務課長の「ドベ」、イッちゃんをこよなく尊敬する小学校教師の「ジュンペ」など、悪ガキ時代のまんま大人になったような連中も、なんとも魅力的でうらやましい。それに、何と言っても良かったのは秀才肌のガリ勉タイプで友達がいない西野。最初は冷たくてイヤな奴だったのが、どんどん良い味を出してくるところが面白い。

そんな連中がヒナゴンで町を盛り上げようと右往左往するのだが、この小説はそれだけに収まらない。小説全体にずっしりと重くのしかかっているのは、平成の大合併。近隣の備北市が主導して合併協議委員会がすでに立ち上がっており、比奈町もその渦に飲み込まれつつある。それに反発するイッちゃん町長もなすすべなく、そのうちリコール運動が起こり、そのまま町長選挙になだれこんでしまう。現実に日本中を揺るがし、地方のあり方を大きく変えた「平成の大合併」、それは単に行政単位としての市町村をどうするかという問題ではなく、日本の地方をどうするか、言い換えれば日本の「ふるさと」をどうするか、という問題だった。事実、この合併でたくさんの町や村が「市」に飲み込まれ、日本の「ふるさと」は大きく変わった。そんな難しいテーマを、本書はコミカルなヒナゴン騒動の裏にしっかりと組み込み、面白おかしいストーリーの中でしっかりと問いかけてくる。