【1975冊目】エドワード・ゴーリー『蟲の神』
「教訓本三冊」のうちの一冊として刊行された、ゴーリー初期の名作。
そもそもこの本を「教訓本」というところが、ジョークにしてはブラックすぎる。なにしろ本書、公園で遊んでいた5歳の女の子が、やってきた黒い車に連れ去られ、蟲の神のイケニエに捧げられる、という筋書きなのだから。
その救いのなさは、グリム民話や日本昔話の「原型」の、情け容赦のない残酷さを思わせる。もっとも、これこそきわめて本質的な意味での「教訓」なのかもしれない……「世界とはこれほどまでに理不尽で、無慈悲で、残酷なものなのだよ」という身も蓋もない真実を教える、という意味で。
ちなみに、本書の邦訳はすべて「韻文」になっていて、これが実に見事。原文の趣意をほとんど損なわず、というか雰囲気はさらにグレードアップさせて、第1句と第3句、第2句と第4句の終わりを揃えているのだ。例えば、こんな感じ。
行方知れずのミリセント(nto)
生きているなら いまいずこ(uko)
なんとか無事で見つけんと(nto)
まだ五つにも 到らぬ子(uko)
直訳も載っていて、こうなっている。
おお、ミリセント・フラストリィの身に何が起きたのか?
まだ生きている望みはあるだろうか?
なぜ見つからないのか? 恐ろしい話だ、
まだ五歳にもなっておらぬのだから
さすがは柴田元幸、名人芸である。原文とあわせて、どうぞご堪能あれ。