自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【1529冊目】ランディ・パウシュ+ジェフリー・ザスロー『最後の授業』

最後の授業 ぼくの命があるうちに (RHブックス・プラス)

最後の授業 ぼくの命があるうちに (RHブックス・プラス)

dainさんのブログのエントリ「死を忘れないための3冊+」で教えていただいたうちの1冊。すばらしい本でした。記して感謝。

さて、本書の「著者」ランディ・パウシュは、カーネギーメロン大学でコンピュータサイエンスを教える学者だ。しかし、その「最後の授業」はコンピュータサイエンスではなく、「人生」についてのものだった。教材となったのは、余命数カ月に迫った、46歳のパウシュ自身。

実は、本書はその「最後の授業」そのものを採録したのではなく、その授業に感銘を受けたコラムニストのジェフリー・ザスローにパウシュが語った「授業の続き」を収めた本だ。もっとも、「最後の授業」も本書も、そのターゲットはハッキリしている。パウシュ自身の子供たちである。

「親ならだれでも、自分の子供に善悪の分別を教え、自分が大切だと思うことを伝え、人生で訪れる問題にどのように立ち向かうかを教えてやりたい。自分が人生で学んだことを話して、子供が人生を歩む道しるべのひとつにしてほしい」(p.8)

この切実な思いこそが、パウシュを突き動かす原動力だ。だから本書で語られているのは、差し迫った死のことよりも、パウシュ自身がどのように生きてきたか、何が自分の夢であり、それをどのように叶えてきたか、ということだ。どの章も、内容だけ見ればごく普通の(むしろいささか「ありがち」な)体験談や人生談……なのだが、それが自分の死後、子供たちに読んでもらうためのものであることを思い出した瞬間に、なんだかせつなくなってしまう。

そして、なんといっても感動的なのが、第6章「最後に」に置かれた、妻と3人の子供の一人一人に向けたメッセージだ。その愛情のこまやかさと温かさには、読むほうもハンカチ必携。押し付けがましくなく、淡々とした口調で語られているだけに、かえってこみあげてくるものがある。

実はパウシュは、本書全体を通じて、「死」そのものについてほとんど言及していない。語られているのはあくまで生きること、夢を追うこと、家族を愛すること。にもかかわらず、「死」を受容するパウシュの姿勢はしっかりと伝わってくる。現世的なようでしっかりと信仰の背骨がある。そのあたりの未来志向的なメンタリティや死生観が、いかにもアメリカ人らしくて興味深い。