【1312冊目】岡野宏文・豊崎由美『百年の誤読』
- 作者: 岡野宏文,豊崎由美
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2008/11/10
- メディア: 文庫
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20世紀の100年間のベストセラーを、名うての読み手二人がバッサバッサと斬りまくるというとんでもない一冊。
とにかく、目次を見ているだけで面白い。なにしろ1900年〜1910年の10冊が、徳富蘆花『不如帰』、与謝野晶子『みだれ髪』、国木田独歩『武蔵野』、尾崎紅葉『金色夜叉』、小杉天外『魔風恋風』、岩野泡鳴『神秘的半獣主義』、泉鏡花『春昼』、田山花袋『蒲団』、押川春浪『東洋武侠団』、夏目漱石『それから』という、まあアヤシゲなものも混じっているがおおむね錚々たる顔ぶれなのに対して、1991年〜2000年がさくらももこ『もものかんづめ』、ウォラー『マディソン郡の橋』、永六輔『大往生』、松本人志『「松本」の「遺書」』、春山茂雄『脳内革命』、渡辺淳一『失楽園』、五木寛之『大河の一滴』、乙武洋匡『五体不満足』、大平光代『だから、あなたも生きぬいて』、ローリング『ハリー・ポッターと賢者の石』なのだ(ちなみに、付録としてついている2001年〜2004年はもっとひどい)。
比べること自体が失礼という感じもするが、最初に挙げた100年前の10冊に比べて、20世紀最後の10年のていたらくはどうだろうか(ただし『もものかんづめ』は本文では高評価)。100年前のベストセラーの半分以上が古典としていまも燦然と輝く傑作揃いなのに対し、20年前のベストセラーのうち一体何冊が、100年とは言わず、現在の書店で生き残っているのだろうか。10年刻みにベストセラーが列挙された本書の目次を眺めていると、その内容の低レベル化、衰退ぶりは目を覆うほど。いったいこの間に、日本に何が起きたのだろう。
本を読む人の絶対数が増えたのかもしれない。出版界のギョーカイ事情があるのかもしれない。しかしこの書名の羅列からは、それだけでは済まない、のっぴきならない「知の退廃」の歴史を感じてしまう。ちなみに本書本文のほうは、古典だろうが文豪だろうが容赦ない辛口コメントがバシバシ付けられ、これはこれでたいへん愉しい。「ホメ」と「ケナシ」のコントラストが鮮やかで、特に古典をいろいろ読みたくなってくる(個人的には『金色夜叉』『細雪』『日本人とユダヤ人』が気になった)。というか、本書最大の教訓は「君子ベストセラーに近寄らず」ということか。むしろ新刊書の大波のなかに埋もれた知られざる傑作をこそ、これからも掘り出していきたい今日この頃である。