【1311冊目】稲継裕昭『地方自治入門』
- 作者: 稲継裕昭
- 出版社/メーカー: 有斐閣
- 発売日: 2011/08/26
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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ひとくちに入門書といっても、いろいろ読み比べてみると、かなり出来不出来の差があるものだ。書かれていることはそれほど変わらないはずなのに、ちょっとした説明の順序とか言葉のつかいかたで、伝わり方が全然違うのである。本書はそういう意味では、かなり「上出来」の部類に入る一冊と考える。
どの章も、冒頭に「P県の鷲本知事の場合」(これがモロに大阪府知事時代の橋下徹で笑える)として具体的なケースを置き、地方自治制度の「限界事例」のようなところから入って核心に進んでいくというスタイルが特徴だ。一見、極端なケースが冒頭で展開されるのでかえって分かりにくそうなのだが、これが違うのだ。むしろ限界ギリギリの事例だからこそ、コトの本質がそこにあぶりだされてくる。そのため、そこからお堅い制度論に入っていっても、問題の核がなんとなく見えているため、的を外さずに理解できるのである。
例えば「中央と地方の関係」という章では、有名な「ぼったくりバー」発言がまず(「鷲本知事」のものとして)紹介される。言うまでもなく、直轄事業負担金を評した橋下知事の「名言」だ。そこから国と地方の役割分担の現状、自治事務と法定受託事務の説明がはじまり、その中で直轄事業負担金が「いかにひどい話か」が説明される。そして、著者はそのまま国と地方の「集権−分権・分離−融合」論に一気に進み、英米型と大陸型の地方分権制度の違い、さらには日本の地方分権史を踏まえた現状の位置づけに至るのだ。その間、コラムでは村松岐夫の「水平的政治競争モデル」や、さらには東日本大震災の経験を通した自治体間連携のあり方までもが言及されるという充実ぶりなのだ。
過不足がないとはこういうテキストのことを言うのであろう。もちろん情報量は入門書ゆえそれなりに絞られているが、すでに書いたように、問題の本質をつかむにはぴったりの一冊かと思う。そして、入門書でいちばん大事なことは、細かい知識の習得よりも、そうした問題の所在を知り、問題意識を持つことのほうであるはずだ。そのための一冊として、この本はオススメしたい。