【1065冊目】富永茂樹『トクヴィル 現代へのまなざし』
- 作者: 富永茂樹
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2010/09/18
- メディア: 新書
- 購入: 2人 クリック: 31回
- この商品を含むブログ (23件) を見る
トクヴィルの2大著書『アメリカのデモクラシー』と『旧体制と大革命』を読み解きつつ、現代日本への「あてはめ」を試みた一冊。
どちらも一度は読んだ本とはいえ、こうやって内容を新書サイズでコンパクトにまとめていただけると、あらためてトクヴィルの思想を確認できてたいへんありがたい。トクヴィルの指摘したデモクラシーのもつ問題点とパラドックス、あるいは平等原理のもつ根本的な矛盾が、その時代特有のものではなく現代にも通じるきわめて本質的なものであることが、本書で再確認できる。
特に、デモクラシーの進展のなかで中間団体が解体されたことで、個人が国家という巨大な存在と直接相対することになったという指摘は、現代のコミュニティ論やNPO論の基礎理論であり、見逃すことはできない。「民主的な専制」を防ぐために必要な中間団体が、かえって民主主義と平等原理の進展によって排除されるという皮肉なパラドックス。デモクラシーの草創期にあって、よくここまで本質を見通せたものだと思う。
そして、興味深く読めたのが終章「トクヴィルと『われわれ』」。ここでは、明治維新から戦後に至る日本の思想をたどりつつトクヴィルの思想と重ね合わせることで、トクヴィル的な視点からの近代日本思想の読み解き、ともいえる試みに取り組んでいる。福澤諭吉や丸山真男がトクヴィルを読み、その影響を受けていたという指摘など、なるほどと思わせられる。
また、トクヴィルが思想の対象とした革命後のフランスや草創期のアメリカと、明治維新後、あるいは戦後の日本の状況が良く似ているという点も、言われてみれば納得。デモクラシーの移入のプロセスはだいぶ違うが、江戸から明治への政治的大転換、あるいは戦前から戦後への大転換にあたりあらわれてくる問題点や矛盾の多くは、すでにトクヴィルによって言われていたことであったのだ。福澤が「トウクビルは先ず余が心を得たるものなり」と書き、丸山が「近頃はもっぱらトクヴィル一辺倒」と述懐したのも、彼らの思想の系譜を思えば、当然の帰結であったのかもしれない。