自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【1035冊目】中田実『地域分権時代の町内会・自治会』

地域分権時代の町内会・自治会

地域分権時代の町内会・自治会

NPOやコミュニティについての本を読むたびに、どうもひっかかっていたコトがある。

そうした本は揃って書き立てる。公共は行政だけのものではない。NPOをはじめ、公共を担う団体が生まれ、育ちつつある。公共部門の役割分担をちゃんとすべきだ。いわゆる「新しい公共論」というヤツである。

「公」の担い手を行政に限らず、広げていくという考え方に異論はない。だが、その手の議論を読むたびに「町会や自治会はどうなるの?」「民生委員は?」「保護司は?」「消防団は?」と、自治体の現場にいる人間としてはどうしても思ってしまう。もちろんそういった既存の団体について触れている本も少なくないが、残念ながら新しい公共をめぐる議論の多くは、こうしたすでにある「市井の公共の担い手」が視野にあまり入っていないように感じた。

そうした人々や団体に対して、いろんな問題点が指摘されていることは知っている。町会や自治会に関するものだけでも「一部有力者に牛耳られている」「構成員が中高年男性に偏っている」「行政べったりで依存している(あるいは下請化している)」「○○○○党の支持団体化している」エトセトラ、エトセトラ。確かに、こうした指摘の中には的を射ているものもあるだろう。しかし、だからといって一気に町会無用論(あるいは無視)になだれ込むのは、産湯と一緒に赤子を流す類の議論ではないのか・・・・・・と思いつつ、この種の議論をこれまで眺めていたのだが、その点、本書はこうした問題点をかなりピンポイントで突いてくれる、私にとっては「ツボ」の一冊であった。

前フリが長くなったが、そういうわけで、本書は町会(本書の言い方では「町内会」)のあり方と意義を真正面から論じた一冊。現状の町内会を単純に肯定するわけでもなく、かといって否定するわけでもない、非常にバランスの取れた内容であった。しかも町内会をめぐる議論のひとつひとつについて、ていねいに論点を整理し、問題点を明確化してくれている。おかげさまで、これまで漠然と考えていた町内会と行政のあり方、NPOなどの団体との協働のあり方などについて、かなり考え方を整理することができた。

どうもこの種の問題の核心は、町内会が地域を代表し、地域の「共益」を総合的に担っているきわめてパブリックな存在であるにも関わらず、制度上は任意加入であり、財務管理や役員の選任など、組織や運営に関するルールらしいルールがほとんどないという「ねじれ」にあるように思われる。ちなみに、この点に対して本書が提示する解決策は、地域自治区などにも触れつつ、基本的には活動内容を活発化することによる加入の促進、役員の任期制や選挙制度の導入など、町内会の自助努力に多くを期待するものとなっている。

コミュニティやソーシャル・リレーションシップの視点で町内会を捉えるなら、確かにこれしかないのだろう。法制度で縛ってしまうのはある種簡単かもしれないが、それでは現在のNPO法のように、その網の目から漏れ出てしまう団体が多すぎ、結果として地域自治にもっとも必要な多様性をそぎ落とすことになりかねない。ただ、こうした「町内会性善説」が厄介なのは、自発的な解決策が、いわゆる旧態依然たる町内会への対策にはなりえない点だろう。まあ、そうした方々もまた「多様性」の一部であると考えて、心広く見守るしかないのかもしれないが……。