自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【502冊目】藤井正・光多長温・小野達也・家中茂編著「地域政策入門」

地域政策入門―未来に向けた地域づくり

地域政策入門―未来に向けた地域づくり

本書は、2004年に鳥取大学に創設された地域学部地域政策学科のスタッフが書いたものであり、「地域政策」という題名はそこに由来する。しかし、それだけではなく、地域に根ざした政策とはどんなものであるべきかを多面的に論じた論考集でもある。取り上げられている事例は鳥取のものが多いが、内容は全国どこにでも通ずる普遍的なものをもっている。

地域コミュニティ、住民自治のあり方、地域資源の活用など、地域政策というテーマにふさわしい内容がバランスよく取り上げられており、国や地方行政の現状も踏まえた上で、総体として地域における行政のあり方が論じられている。この種の本の「常連」著者はほとんど名を連ねていないが、内容のクオリティはなかなか高く、しかも大学の関係者によるものとしては珍しく、どの執筆者も具体的な現場の状況をよく知り、それを踏まえた上で議論を展開しており、安易な空理空論には陥っていない。さすがに、あえて「地域学部」を大学に設けただけはある。こういう水準のスタッフを揃えた学部学科が全国の大学にでき、そこで育った若者が地方自治体やNPOなどの現場に飛び込んできてくれれば、と思ってしまった。地域の視点とでもいうべきものが、ここには生きている。

面白いなと思ったのは、冒頭近くに展開される、地理学における「地域概念」の考え方。これは、地域というものの捉え方のバリエーションであって、「実質地域」「認知地域」「活動地域」の3分類が提示される。「実質地域」は、空間的なまとまりで捉えられる「等質地域」と、通勤や経済関係等のベースで捉えられる「結節地域・機能地域」に分けられる。「認知地域」はいわば個々人の頭の中でイメージされている地域の様相であり、「メンタルマップ」として把握される。主観的な地域、ということもできよう。また、社会が空間を地域として組織化する(「地域」が新たに組織化され、生成される)という側面からの捉え方が「活動地域」とされる。まあ、こういう個別の分類も面白いが、なにより、われわれが認識しているつもりの「地域」とは別に、捉え方によってさまざまな「地域」がありうるという発想そのものが衝撃的であった。自治体が捉えている「地域」と、その住民のうちの一人が捉えている「地域」は、まったく別のモノかもしれないのである。