自治体職員の読書ノート

自治体で働くソーシャルワーカーが、読んだ本を紹介します。

【666冊目】大内田鶴子『コミュニティ・ガバナンス』

コミュニティ・ガバナンス―伝統からパブリック参加へ

コミュニティ・ガバナンス―伝統からパブリック参加へ

住民組織について、日本とアメリカを比較しつつ、今後の展望をさぐる本。

日本については、町内会や自治会の現状と課題がわかりやすく整理されている。行政の末端組織として、特に「市民活動」派からは目の敵にされやすい町会・自治会であるが、本書ではそれ以前から脈々と続いてきたものとして住民組織を取り上げ、その行く末に現代の町会・自治会を位置づける。

特に、江戸の「町火消」や京都の「町組」など、消防組織から発展してきた住民組織の歴史は面白い。また、江戸の「五人組」とイギリスの十人組「タイシング」を比較した穂積陳重氏の研究もわずかながら紹介されており、日本における住民自治組織が(相互監視的な役割も担っていたとはいえ)それなりの歴史と伝統の積み重ねを経てきていることを再確認させられる。

また、アメリカの住民組織というとトクヴィル以来の住民自治の伝統が生きていそうであるが、実際には『孤独なボウリング』でパットナムが指摘したとおり、アメリカのコミュニティの衰退は実は著しい。本書はその中で再び頭をもたげてきたアメリカの新たな住民組織であるネイバーフッドを取り上げる。

特にポートランドにおけるネイバーフッド・システムの徹底は素晴らしい。アメリカが古き良き住民自治の伝統をこのような形で現代によみがえらせていることは初めて知ったが、いかにもアメリカ的な、個人主義相互扶助を絶妙のバランスで取り入れたものとなっており、日本でも学ぶべき点が多い。一方、日本の先進例として取り上げられているのは宝塚市。従来の自治会を土台として活かし、その上に充実した住民自治システムを構築しており、日本でもここまでできるのか、と思わせられる。

思うに、われわれは町内会や自治会というものを捨てるのではなく、かといって旧態依然たるまま放置するのでもなく、その歴史をさかのぼり、日本における住民組織の「本来」を改めて知らなければならないのである。そのためには、それこそ江戸の町火消の伝統と心意気をどのように現代によみがえらせ、その上に現代型の住民自治を築き上げていく必要があるのかもしれない。