【1033冊目】木山泰嗣『小説で読む行政事件訴訟法』
- 作者: 木山泰嗣
- 出版社/メーカー: 法学書院
- 発売日: 2010/03
- メディア: 単行本
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文字通り、小説仕立てで行政事件訴訟法が頭に入る一冊。
主人公は法科大学院学生の佐伯祐一。彼のエクスターンシップ(法律事務所での実習)の日々を追いながら、同時に行政事件訴訟法の仕組みと流れを自然に学べるようになっている。とはいえ、行政事件訴訟法といってもその内容が多岐にわたり複雑なのはご存知の通り。本書は個々の規定や判例といった知識面を網羅するというより、むしろ行政事件訴訟の大づかみの流れと、そして何より法的思考のプロセスを見せてくれている。本書で扱われているのは著者のご専門でもある税務訴訟だが、同時に行政事件訴訟法全体に共通する「マインド」と「メソッド」がうまく組み込まれている。
例えば、冒頭で出てくる管轄の話や、最後まで小出しに出てくる印紙代の話など、知識としてはかなり「細かい」部分になってくるものの、そこをきっちり掘り下げることで、実は民事訴訟と行政事件訴訟の違いや、それぞれの本質が浮き彫りになってくるという仕掛け。しかもそれは、単なる机上の知識ではなく、実務家の感覚が織り込まれた「活きた知識」なのである。
さらに、この手の「小説で読む……」といったタイトルの本の多くは「小説」という面で難があることがたいへん多いのだが、本書は実は、小説部分がたいへん読みやすい。会話の流れ、筋の運び方、伏線の仕込み方など、確かに素人芸っぽい無骨さは感じられるものの、著者より小説がヘタな専業作家はゴマンといる。もちろん、基本的には小説はお勉強の手段であり、そこにある程度以上のクオリティを求めること自体が的外れなのだろうが、本書はそのあたりが違和感なく仕上がっている。本書は『小説で読む民事訴訟法』の続編とのことらしいが、佐伯君が今後どうなるのか(そして寺原さんとの仲はどうなるのか)、さらなる続編を期待したくなる一冊。