【1420冊目】川崎政司『地方自治法基本解説』
- 作者: 川崎政司
- 出版社/メーカー: 法学書院
- 発売日: 2011/04
- メディア: 単行本
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です・ます調で読みやすい。二色刷りでわかりやすい。図表のデキがたいへんよろしい。以上。
この手の解説書、テキスト系の本は、読むのはいいが評価がむずかしい。いやいや、教科書としての質の良し悪しを評価するのはそれほど大変ではないが(ちなみに、これはとてもよくできた教科書)、それだけではどうもつまらない。
内輪事情をさらすようだが、「読書ノートを書きやすい本」というのがある。読んでいて凹凸がある本、「突起」や「ざらつき」がある本は書きやすい。著者の主張がハッキリしている本がその典型だ。
その真逆が本書のような本である。中立的で、網羅的で、著者自身の主張はなるべく押し隠し、ひたすら淡々と丁寧に書かれている。テキスト系の本はたいていそういう感じだ。でも、そういう本にはそういう本の必要性がある。
はっきりいって、地方自治法は、もっとも「学びにくい」法律のひとつではないかと思う。とにかくやたらに条文が多い。そのわりに動きがなく、並列的にそれぞれの項目が並んでいる。しかもしょっちゅう法改正がある。規定の仕方もなんとなく恣意的というか、統一感がない。
いわゆる「六法」でいえば、民法に似ている。勉強していて一番「砂を噛む」ような勉強になりやすいのが、この手の実体法と呼ばれる法律だ。同じ行政関係の法律でも、例えば行政事件訴訟法や行政不服審査法は、手続法なので流れや動きがあってイメージしやすい。地方公務員法は条文もずっと少ないし、自治体職員にとってはある意味「切実」な法律なので、頭に入りやすい。情報公開法や個人情報保護法は、生々しい判例がたくさんあって面白い。
その点、この地方自治法は、まずたいていのことが条文に書いてある。そこから広がっていく論点とか判例とかの要素が(なくもないが)あまり多くない。あるのは例の「行政実例」だが、いまどきあんなものを金科玉条にしたくもない。
せめて地方自治法全体をもっとダイナミックに、シンプルに理解するための補助線が引けないかと考えているのだが、なかなかよいものがみつからない。せいぜい憲法に遡ってそこからの結びつきで全体を再構成するか、その延長で「団体自治」と「住民自治」という地方自治の本旨から入り、その相互関係のダイナミクスのなかでそれぞれの規定を位置づけていくか……。う〜ん、それもちょっと物足りない。なにかよい「見方」があったら、教えてほしい。
その上で個々の知識を学びたくなったり、網羅的に勉強したくなったら、この一冊を手に取るとよい。冒頭で投げやり気味にホメたとおり、地方自治法といういささかマイナーな法律について書かれた概説書としては、ずいぶんしっかりとまとまっている。入口はやわらかいが、奥はしっかりとロジックが固まっている。
要するに、良い教科書のお手本である。あとは勉強する気があるかどうか。私は……ヒミツ。