【857冊目】広井良典『コミュニティを問いなおす』
コミュニティを問いなおす―つながり・都市・日本社会の未来 (ちくま新書)
- 作者: 広井良典
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2009/08/08
- メディア: 新書
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この方の著作は、以前、3冊ほどをまとめて読んだことがある。経済成長と拡大志向を前提とする考え方に対して「定常型社会」という明確な概念を打ち出し、説得力のある議論を展開されていたという記憶がある。本書のテーマもその延長線上にあり、「定常型社会」に不可欠の要素として「コミュニティ」を提示し、あるべきコミュニティの姿を探るものとなっている。
著者はコミュニティを、「個人」と「社会」(重層社会)の間にある中間集団と位置付ける。したがって、コミュニティは必然的にその「内部」に個人を抱え、同時にその「外部」が社会となる。ユニークなのは、コミュニティの内部関係の原型を母子関係、外部関係の原型を父子関係になぞらえている点。一見とっぴな感じはするが、考えてみるとなかなか的を得ているように思う。
本書の守備範囲はたいへん広く、またそれぞれの分野が「タテ割り」にならず、相互にクロスしている。都市論や都市計画、福祉や医療などの社会保障論、土地政策のあり方、ローカリティに基礎をおくコミュニティ論、さらには独我論などの(やや青臭い)哲学的な議論までが登場し、文明論にまで及ぶ。その中から立ち上がってくるのは、結局、まちづくりや福祉・医療、コミュニティを相互関連させるなかで、「人と人がつながる」「人の顔の見える」地域社会を築き、そこに社会基盤を置くということであるように思われる。金子郁容氏の「コミュニティ・ソリューション」などの発想と近いものがある。
本書には著者がこれまで扱ってきたテーマがとにかくてんこもりで詰まっている。社会保障論、ケア論、「定常型社会」、都市論等々がそれである。もっとも、これらはひとつひとつ取り上げたとしても、きちんと論ずるには新書一冊では到底足りないほどのテーマ。それを一冊に濃縮した結果、本書は議論の幅が広い一方、やや展開に雑駁なところがあるように感じた。一言で言えば詰め込み過ぎであるように思う。もっとも、これくらいコンパクトにしておかないと、かえって各論の深みにはまってしまい、全体像が見えづらくなるということはあるのかもしれない。