自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【692冊目】鷲巣力『公共空間としてのコンビニ』

公共空間としてのコンビニ 進化するシステム24時間365日 (朝日選書)

公共空間としてのコンビニ 進化するシステム24時間365日 (朝日選書)

食料品店。駄菓子屋。本屋。酒屋。タバコ屋。銀行。オフィス。宅配受付。チケットセンター。役所。防犯施設。公衆トイレ。癒しの空間。コミュニティスペース。

かつて、これらは別々の場所にあり、別々の組織が運営していた。いま、これらのほとんどは、基本的にコンビニに揃っている。しかもたいていは24時間オープン。本来は「小売店」に過ぎないコンビニが、なぜこんなにたくさんの役割を担うことになったのか。本書は、そのことをコンビニの歴史や販売戦略を通して分析し、「コンビニとは何なのか」を解き明かそうとする一冊。

そもそもコンビニがこれほど普及した理由は、オイルショックを経て日本が「高度成長」から「低成長」にシフトした時、その時流にいち早くキャッチアップできたためらしい。低成長社会になったということは、「作れば売れる」生産者中心の産業構造から、「消費者が主人公」の産業構造に切り替わったことを意味する。コンビニはまさに「コンビニエンス」(便利)という言葉通り、徹底的に消費者に目を向け、消費者の都合に生産者を合わさせたことで大成功したのだ。オイルショック後も(なんといまだに)高度成長型の発想から抜け出せない既存型の商店街が、その頃から地盤沈下をはじめたのとは対照的である。

しかも、消費者の購買意欲をそそる仕組みが、コンビニには幾重にも設けられている。巧妙な商品配列。明るく清潔な店内。押し付けがましくない(その分機械的な対応の)従業員。さらに数時間ごとの天候、近隣の行事やイベントまでも織り込んだ周到な商品発注で、限られたスペースに売れ筋の商品を並べる。POSシステムなどの言葉は聞いたことがあったが、「売るための仕組み」が、ここまで緻密周到に行われているとは知らなかった。

一方、あまりにも「便利」になりすぎたため、コンビニは社会の矛盾や病理を浮き彫りにし、あるいは生み出すことにもなった。地域コミュニティの崩壊でコンビニがコミュニケーションの場となる人々、「さびしいからコンビニに来る」孤独な若者、便利と横暴を履き違えた「モンスター消費者」、出来合いの食品で埋め尽くされた家庭の食卓。そして、まだ食べられるのに捨てられる膨大な食べ物、昼間も煌々と灯る照明、加盟店の、特に店主の犠牲の上に成り立つ24時間営業の仕組み……。地域や家庭の崩壊、食糧問題、環境問題、過重労働といった現代社会の病理までが、コンビニにはずらりと並んでいる。

いったいコンビニとは何なのか。時代の申し子か、日本の文化か。あるいは便利という「パンドラの箱」か。このとてつもないモンスター産業の正体について、われわれは実は何も知らないのではないだろうか。