自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【693冊目】仲町啓子『琳派に夢見る』

琳派に夢見る (美術館へ行こう)

琳派に夢見る (美術館へ行こう)

この間読んだ辻邦生の『嵯峨野明月記』以来、俵谷宗達や本阿弥光悦を見たくてならず、図書館で図版などを探しては覗いていた。その中で、借りられるサイズの本でふんだんに図版が載っており、解説も充実していると見えたため借りてきたのが本書。俵谷宗達、本阿弥光悦尾形光琳酒井抱一ら、いわゆる「琳派」の代表作がまとめられている。

あまり意識したことがなかったのだが、琳派と言われる人々の属する時代は、主だった作家だけをみても宗達の桃山・江戸初期から酒井抱一・鈴木基一の江戸末期(基一の没年は1858年だかまさに幕末)まで幅広い。その中で、宗達・光悦(まさに『嵯峨野明月記』の世界)に始まり、光琳において頂点に達し、抱一らにつながる大きな流れを、本書からは感じ取ることができた。

特に、有名な「風神・雷神」のモチーフなど、同じ主題・同じ構図の作品が宗達→光琳→抱一→基一と受け継がれていくところ、同じような絵の中に、(いや、むしろ同じようなテーマや構図であるからこそ)作者の個性や時代の影響がはっきりと見えてくるところが面白い。西洋絵画でも、同じようなエピソード(たとえば「イエスの生誕」)をさまざまな画家が描いてなおそれぞれの個性が主張されているというケースがよくあるが、琳派の風神・雷神もそれに近いものを感じる。

まあ、この種の本は解説するとか感想を書くとか言うより、とにかくぱらぱらと眺めては目に止まった絵をじっくり眺める、というのが正しい味わい方であろう。その意味でも、本書はコンパクトながら琳派の代表作が色鮮やかに収められており、その金と銀、緑が特徴的な独自の世界を楽しむことができる。小説ではいまひとつピンとこなかった、光悦の書や宗達の絵の凄みも伝わってきて、なかなか楽しい一冊であった。