【501冊目】井上ひさし他「井上ひさしと141人の仲間たちの作文教室」
- 作者: 井上ひさし,文学の蔵
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2001/12/26
- メディア: 文庫
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以前、井上ひさしの「自家製文章読本」を読んだが、本書はいわばその実践版にあたる。一関市で井上氏を招いて実際に行われた作文教室の、いわばライブ中継なのである。
前半は講義。いやはや、目からウロコの連続である。その割にこのブログは文章がへたくそだな、と思われるかもしれないが、それはさておき、わかりやすい文章を書くためのエッセンスがぎゅっと詰まっている。自治体職員をやっていると、住民向け、職員向けに「分かりやすい」文章を書く必要が出てくる。本書は、その対策に役立つこと請け合いである。
冒頭、作文の秘訣を著者はこう言う。「自分にしか書けないことを、だれにでもわかる文章で書く」……しかし、これは実はものすごく難しい。そのことは承知の上で、著者はあえてこのことを目標に置く。そして、原稿用紙の使い方からはじまって、文章を書くときに陥りやすいワナ、避けた方が良い言葉などを、懇切丁寧に解説してくれている。特に強調されているのが、「読み手のことを考える」こと(自分も含めて、役所の文章の多くにはこの点が決定的に欠けている)。そして、読み手にわかる言葉で書くこと。そのためには、文を短く区切り、多義的にとれる文章を書かないように気をつけ、辞書を必ず使うなど、基本的な作文の作法をきちっと守ること。さらに、こうした指摘の中に織り交ぜるようにして、日本語とはどういう言葉なのか、という、作家ならでは、井上ひさしならではの「日本語論」が展開されていく。これがまた、すばらしい。
本書で「目からウロコが落ちた」場所を挙げているとそれだけですごい分量になってしまいそうなので、ひとつだけ挙げると、「は」と「が」の違いを恥ずかしながら私はこれまで知らなかった。「私は……」の「は」、「私が……」の「が」のことである。知らなくてもなんとなく正しく使えてしまうのだが、さて、ちゃんと説明できますか?
そして、後半にはなんと、この作文教室で実際に書かれた「作文」を井上ひさしが添削したものが載っている。この添削がまた、見事。もともとの文章もなかなかハイレベルなのだが、それがさらに、たった一語を削ったり別の言葉に置き換えるだけで、見違えるようになるのである。おそるべし、井上ひさし。