【479冊目】阿佐田哲也「麻雀放浪記1 青春篇」

- 作者: 阿佐田哲也
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2007/10
- メディア: 文庫
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最近、内容が全然「自治体職員の」じゃなくなってきているが、こういう本が一番面白いんだからしょうがない。
さて、本書は、戦後間もない焼け野原の東京を舞台に、「坊や哲」「ドサ健」「出目徳」らの死闘を描く麻雀小説の金字塔である。
著者自身の体験に基づくだけあって、とにかく麻雀やチンチロなどの博打の世界のシビアさが刺すように伝わってくる。その背景にあるのは、言うまでもなく東京中を焼き尽くし、すべてを奪った戦争という化け物である。特にこの「青春篇」は、占領軍のキャンプに潜り込んで麻雀を打ったり、負けた米兵から暴力的な仕打ちを受けたりと、戦争に負けたばかりの日本のありさまが強烈に伝わってくる。
個人的には、人を陥れて勝ちを手に入れようとする、騙し騙されが中心となる阿佐田哲也の麻雀観はあまり好きではない。しかし、小説としてみた場合、この「麻雀放浪記」は最高である。ギャンブル小説の中だけでなく、エンターテインメント小説すべてをひっくるめても、こんなにエキサイティングで、なおかつ人間の欲や業や、男の矜持や悲哀を深くえぐるように描き切った作品はほとんどないのではないか。何より博打に身を焼くようにして生きている男たちのなんと魅力的なことか。そして、生命をその一晩で燃やし尽くすような、熾烈な一夜の勝負。博打という、ある意味ではもっとも馬鹿馬鹿しいことに賭けるその時間に、彼らのまさに生命そのものが凝縮している。
とにかく面白い。個人的には、戦後大衆文学の最高峰だと思っている。ただし、麻雀を知らないで読むとちょっとツラい。