自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【478冊目】ジェームズ・C・コリンズ&ジェリー・I・ポラス「ビジョナリー・カンパニー」

ビジョナリー・カンパニー ― 時代を超える生存の原則

ビジョナリー・カンパニー ― 時代を超える生存の原則

1950年以前に設立され、今なお卓越した業績を挙げ続け、社会にインパクトを与え続けている企業を、本書では「ビジョナリー・カンパニー」と呼ぶ。挙げられているのは3M、IBM、ヒューレット・パッカード、ジョンソン&ジョンソン、ウォルマート、ウォルト・ディズニーなど18社。日本からは、唯一ソニーがエントリーしている。

では、これらの「ビジョナリー・カンパニー」は、ほかの会社とどこが違うのか。本書はそのことを、比較対象企業(ビジョナリー・カンパニーほどではないが、それなりの業績を挙げている企業)との徹底した比較から導き出している。本書によれば、とりわけビジョナリー・カンパニーをビジョナリー・カンパニーたらしめているのは、「基本理念を維持する」ことと、「進歩を促す」こと。この両者は一見矛盾しているようにも見えるが、そうではないことは本書を読めばわかる。むしろ、絶対的に墨守すべき「基本理念」を明確化、文書化して徹底的に社員に叩き込んだ上で、それ以外の単なる慣習や仕組みはどんどん変えていく、その「メリハリ」がポイントのひとつであるように思える。

本書は組織論としてとても面白い。短期的な利益ばかりに目を奪われず研究や社員の育成にコストをかけること、生え抜きの社員が経営を担うこと、失敗を恐れず多くのトライアルを行った上で淘汰を図る仕組みなど、企業だけでなく行政にも応用可能な部分は多い(適用できない部分もあるが)。本書の続編には行政やNPOを扱ったものもあるらしいが、読んでみたいものである。また、説明が常に具体的であること、データ部分を巻末に回して叙述中心の組み立てとしたこと、比較対象企業を置いたことで「違い」を明確に出していることなど、書き方が実に巧みである。決して短い本ではないが、一気に読むことができた。ビジネス書の中には、あからさまに利益優先でエゴむき出しのうんざりするものが多く、読んでも途中で放り出すことが多いのだが、本書は全然違う。何より目線の高さ、理念の高さが段違いである。