【754冊目】ジェリー・ポラス他『ビジョナリー・ピープル』
- 作者: ジェリー・ポラス,スチュワート・エメリー,マーク・トンプソン,宮本喜一
- 出版社/メーカー: 英治出版
- 発売日: 2007/04/07
- メディア: 単行本
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以前読んだ『ビジョナリー・カンパニー』の、人間版というべきか。継続して「成功」を収め続けている人々への詳細なインタビューから、「成功する人々」の共通項をあぶりだすという方向性は前著と同じ。ただ、難しいのは、会社と比べて「人間」における成功をどう定義するか。本書は第1章を「改めて成功を定義する」として、この根本的な問題にたっぷりページを割いている。そして、本書を読む上で一番たいせつな大前提も、この第1章にある。ここを読み飛ばして、自己流の「成功」概念にしがみついたまま先を読んでも、おそらく得るものはあまりない。
本書で言う成功とは、われわれがイメージするような、たとえばたくさんお金を儲けること、有名になること、名誉や勲章を得ること、などではない。そうしたものは、結果としてあとから付いてくることはあるが、最初からそれらを追い求めるべきではない、と著者は言う。むしろ成功とは、自分の「生きがい」を見い出し、それにとことんまで打ち込むことだとされる。そのためには、自分が何に「意義」を感じるのかを見定めることが重要となる。答えはすべて自分の裡にある。ただ、内心の声はささやき声で、あまりに小さいため、周囲の雑音(金儲けとか、昇進とか、安定とか)に簡単にかき消されてしまうのだ。すべての出発点は、自分の心の声に素直に耳を傾けること。
次に、その「意義」に向かうための思考が重要になる。これは、ものの考え方や立ち位置、生きがいに向かうスタンスのようなものだ。そして、行動を惜しまないこと。この「意義」「思考」「行動」の三位一体が、本書の大きなフレームとなっている。
実は、この中で「思考」や「行動」に関する記述は、実はそれほど目新しいものはない(誰もが成功の秘訣として語るが、なかなか実践できない典型的な内容だ)。だから、うかうか読んでいると、「成功」という言葉を自己流に解釈してしまい、安直な成功本、ビジネス本として本書を読んでしまうことになる。だから、繰り返しになるが、本書で大切なのは冒頭の「成功の定義」。
もっとも、誰もが本書に言う「ビジョナリー・ピープル」になるべき、とは思えない(本書もそのようには書かれていない)。もっと違った方向性で人生を楽しむ人はたくさんいるだろう(私も、本書の価値観よりは『方丈記』の価値観を採りたい)。ただ、本書のような本を手に取ってしまう「成功願望者」にとっては、耳に痛いかもしれないが、参考になる指摘や言葉がちりばめられている。「ナンバーワンよりオンリーワン」じゃないが、少なくとも、世間一般の成功に目をくらまされて空しい一生を送る(『クリスマス・キャロル』のスクルージみたいに)前に、自分にとっての「意義あること」や「生きがい」を考える良い機会にはなるだろう。