自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【431冊目】日本経済研究所調査局編著「公共サービスデザイン読本」

公共サービスデザイン読本―市民参加と民間活用で公共サービスが変わるー

公共サービスデザイン読本―市民参加と民間活用で公共サービスが変わるー

本書の執筆者が所属する「日本経済研究所」は、PFIやPPP、公民連携に関する草分け的存在、らしい(実は本書を読むまでほとんど知らなかった)。本書は、実際の取り組み例を交えつつ、あるべき「公共サービス」の姿を描き出そうとした一冊。

本書は、公共サービスを「民」が担うこと自体は自明の前提とし、その上で、民間による「あるべき公共サービス像」を多面的に示している。保育所や病院など、安易な民間化がさまざまなトラブルを生んでいる分野を正面から扱い、具体例を通して、「直営戻し」でも「コストダウン一辺倒の民間化」でもない道を模索しており、非常にバランスの良い議論が展開されている。

読んでいて思ったのは、民間委託等の失敗事例で「民」の側が責められることが多いが、表面上はそう見えても、実際には発注者である「官」の側に根本的な問題があるケースが多いのではないか、ということ。低価格ばかりを強調するなどは論外として、公共サービスの「公民連携」のためには、仕様書の作成から事業者の選定、モニタリングまでの全体を通して、民間の発想やノウハウを活用しつつ一定の成果を導き出す、発注者ならではの、ある種の「したたかさ」が必要なのかもしれない。

なお、本書はPFI等の導入当初のあり方や事業者選定の手法、協議のあり方等についても丁寧に述べられているが、特に類書と違うのは、導入後の「モニタリング」の記述が充実していること。実際、特に20年や30年の長期にわたるPFI等で事業の適正を確保するためには、モニタリングをしっかり行うことがキーポイントとなってくる。しかし、もはや事業主体ではない「官」の側が、事業のノウハウを独占する受託者側に対してきちんと監視機能を果たすのは、実はものすごく難しい。しかし、そのための具体的な手法は、案外確立されておらず、「投げっぱなし」「任せっぱなし」の民間化が横行してしまっている。モニタリングをなめてはいけないのである。本書を読んでいて、例のふじみの市プール事故を思い出してしまった。