自治体職員の読書ノート

自治体で働くソーシャルワーカーが、読んだ本を紹介します。

【468冊目】稲沢克祐「自治体の市場化テスト」

自治体の市場化テスト

自治体の市場化テスト

市場化テストに関する総合的解説書。イギリスの「強制競争入札」や「ベスト・バリュー」などと照らし合わせつつ、日本における市場化テストの可能性とあるべき姿を検討する。

市場化テストのメリットとデメリット、克服すべき課題が非常にわかりやすく整理されている。まず、市場化テストの目的を、これにより行政改革を促すという点におく。目的が明確になっていないとその後の方針をしっかりと決めることができない、という指摘は同感。そして、導入すべきかどうかのメルクマール、導入にあたって自治体側がクリアすべき課題(人件費等も含めた当該事業にかかる総コストの明示、その業務に求められる成果水準、モニタリングのあり方、民側が落札した場合に移管される業務に就いていた公務員の処遇など)について、その考え方をひとつひとつ丁寧に解説しており、市場化テストの導入を検討する際に参照するマニュアルとしても活用できそうである。

しかし、本書の役割は単なるマニュアルに終始するものではない。市場化テストの目的が行政改革と書いたが、実は市場化テストのメリットは、このフィルターを通すことで、これまで慣例で続けてきたその業務が「そもそも必要なのか」「本当に公務員がやるべきことなのか」という問いを、自治体側に突き付けるところにある。官民競争は、いわばその結果にすぎないとさえ言えるかもしれない。ただ、「必要だが民間のほうが効率的で成果が高い」となった場合に民間の事業者がその業務を担うとして、今度はそのモニタリングをどうするかを考えなければならない。私見では、モニタリングはこうした「民間化」の最大の難所である。監視すればいいといっても、業務に自ら携わることのない者が、毎日その業務を行っている者を的確にチェックするのは至難の業である。この問題は、すでに指定管理者をめぐってさまざまな自治体で起きている。本書で取り上げられている事例のように、同じような業務を複数民間化する場合にも、あえてひとつだけは直営で残すというのも選択肢としてはアリなのかもしれない。

また、市場化テストの厄介なところは、競争の一方である「官」が、官民競争の結果を判定する主体にもなるという点であろう。これについては、本書では第三者委員会の活用などを説いているが、こうした委員会のメンバーは誰が選定するのか。まあ、結局は当落の基準や理由が明快であれば足りることで、要するに情報開示がカギになるのだと思うが、それでもこのシステム、「官」の善意をどこかで前提にしてしまっているような気がする。自治体職員がこういうことを言うのもなんだが、そのあたりがこの制度の一番の危うさなのではなかろうか。