【357冊目】末弘厳太郎「役人学三則」
- 作者: 末弘厳太郎,佐高信
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2000/02/16
- メディア: 文庫
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「役人学三則」「役人の頭」「嘘の効用」「小知恵にとらわれた現代の法律学」「新たに法学部に入学された諸君へ」「法学とは何か」の6篇からなるエッセイ集。主に大正から昭和初期に書かれたものばかりであるが、恐ろしいことにその内容はほとんど現代にも通ずるものがある。そして、こういう端正でありつつ軽妙洒脱、その中に痛烈な皮肉を効かせた名人芸的なエッセイを書く法学者は、もはや平成の世には見当たらない。
「嘘の効用」に始まる一群の法律に関するエッセイは、今でも法学入門として読まれるべきものである。特に、解釈法学に終始せず「政策法学」に至るべきとする主張、法を学ぶ者は個別の知識のみならず法律の考え方を会得すべきであるとする指摘などは、まことに正しいように思う。硬直した法規万能主義がはびこっているのは大正デモクラシーの世も今も同じようである。
そして、官庁に就職が決まった教え子に向けた体裁で書かれた「役人学三則」である。痛烈な皮肉であるが、それだけに恐ろしいほど的を得ているものがある。
第1条 およそ役人たらんとする者は、万事につきなるべく広くかつ浅き理解を得ることに努むべく、狭隘なる特殊の事柄に特別の興味をいだきてこれに注意を集中するがごときことなきを要す。
第2条 およそ役人たらんとする者は法規を盾にとりて形式的理屈をいう技術を修得することを要す。
第3条 およそ役人たらんとする者は平素より縄張り根性の涵養に努むることを要す。
さらに次の「役人の頭」では、明治以降の国を挙げての西欧化では能力を発揮した官僚が、当の西欧文化の行き詰まりを眼にして方向転換を図ろうとするものの、模倣ばかりに慣れて創造性に乏しいため単純にわが国の古きに戻ろうとしている、そうしてもはや指導者としての能力がないにもかかわらず人々を指導しようとしている、と指摘している。戦後の高度成長以後の霞ヶ関あたりにそっくりそのままあてはまりそうな言葉である。違うのは、平成の世の官僚は「わが国の古き」にも戻ることができず、ただ目先の利害ばかりみて右往左往しているところくらいだろうか。