自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【2786冊目】森田果『法学を学ぶのはなぜ?』


高校生向けの法学の模擬授業がもとになっているとのことですが、むちゃくちゃわかりやすいです。私が高校生の頃にこの本を読んだら、法学部に行っていたかもしれません。


いろんな事例を引きながら、法学のおもしろさを伝えているのがいいですね。気になったのは、イスラエルの保育園で実際に導入された「延長保育への罰金」の例。保育士さんたちが好意でやっていた延長保育を「罰金制」(有料化)したところ、かえって延長保育を利用する人が増えてしまった、というものです。好意でやってもらっていたことで遠慮していた親たちが「お金を払えば済む」ことで、かえって気軽に延長保育を申し込むようになったためでした。


これ、行動経済学の本でも見たことありますが、法制度の作り方にも活かせるのですね。個人的に思い出したのは、障害者雇用の法定雇用率を達成していない企業への「納付金」制度。これもまた「金さえ払えば障害者を雇わなければいい」という認識を、経営者に与えたりしてはいないでしょうか。余談ですが。


ユニークなのは「法を作る」という章。ここでは「テストに病欠した場合は追試を受けさせる」というルールについて、実際に考えさせるようになっています(実際の模擬授業では、グループワークでルール作りなどをさせたのでしょうか)。これもまた、最近大学入試で「コロナ感染者の受験拒否」が物議をかもしたことを考えると、非常にリアルかつ高校生にも身近なテーマだと思います。


こうした事例を通して、さまざまな角度から法について考える一冊なのですが、印象的だったのは、法学とは「ファースト・ベスト(最善の策)が実現できないときに、せめてなんとかセカンド・ベストを実現しようと努力してきた知恵を学ぶこと」であるというくだりでした。


なるほど、だから法学には「通説」や「少数説」や「判例」はあっても、自然科学のような「唯一の正解」がないのですね。でも、そのぶんだけ法学は、社会に出てはじめて魅力がわかる「オトナの学問」なのかもしれません。私が高校生の頃、法学にさほど魅力を感じなかったのも、無理のないことだったのかもしれませんね。


最後までお読みいただき、ありがとうございました!