【311冊目】越川禮子・林田明大「『江戸しぐさ』完全理解」
- 作者: 越川禮子,林田明大
- 出版社/メーカー: 三五館
- 発売日: 2006/11
- メディア: 単行本
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「江戸しぐさ」は、いまや静かなブームとなっている感すらある。本屋に行けば江戸しぐさの本が何冊も並んでいるが、そのほとんどを著しているのが、本書の著者のひとりである越川氏である。本書はその越川氏と、陽明学研究家の林田氏がそれぞれに著した部分と、お二人にオリエンタルランドの社員で「江戸しぐさ研究会」を主宰する山口浩作氏が加わった鼎談からなっている。ちなみに本書は「江戸しぐさ」と「陽明学」の類似性に着目してこういう組み合わせで編まれたようであるが、それぞれのパートが独立しすぎてしまっており、コンセプトとしては分かるのだがやや組み合わせが空回りしてしまっているよううな気がする。
林田氏の陽明学解説も悪くはないが、やはり惹きつけられるのは越川氏の説く「江戸しぐさ」の重要性である。「傘かしげ」や「こぶし腰浮かせ」など、江戸しぐさといえば具体的な行動が思い浮かぶが、越川氏はその点、大切なのはその奥にある心構えである、ときっぱり書いている。「しぐさ」は「仕草」ではなく「思草」と書くのであって、思いが行動になって表れるのが「江戸しぐさ」なのだそうである。
それは、周囲の人間に対する配慮であり、気遣い、思いやりといった、見知らぬ人々が密接に関わりあって生活せざるを得ない都市生活における「町人の生活の知恵」の結晶であるともいえよう。そもそも、江戸しぐさは江戸の商人が、跡継ぎとなる子弟に商売に必要な気遣いや思いやり、気働きのあり方を具体的な行動を通して学ばせるためにいわば編み出したものであり、もともとは「繁盛しぐさ」などと言っていたらしい。
そうした「江戸しぐさ」が今これほど見直され、再評価されているのは、やはり効率一辺倒の殺伐とした世の中を何とかしたい、と思う心ある人たちが増えつつある証であるように思える。事実、本書を読んでから電車に乗ったり、道を歩いていると、周囲への配慮が足りない人が老若男女を問わずいかに多いかに驚かされる。電車の出口で降りもしないのに仁王立ちになっている人、混み合った駅の階段を人を押しのけるように下りようとする人、狭い道でも真ん中をずんずん歩いてきて、すれ違う時に片側に寄るそぶりすら見せない人・・・・・・。そういう人たちに共通するのは、目が暗く、顔がこわばり、周りをうかがう余裕が見られないこと。いちいちそういう人を気にしていたらきりがないが、せめて自分がそうならないよう、気をつけたいものである。