【312冊目】シェイクスピア「リア王」
- 作者: シェイクスピア,安西徹雄
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2006/09/07
- メディア: 文庫
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「小説」ではなく戯曲。それも、おそるべき悲劇である。シェイクスピアの最高傑作として本書を挙げる人も多いが、うなずけるものがある。
引退を決めたリア王は、3人の娘に、父である自分をどれくらい愛しているか尋ねる。長女のゴネリルと次女のリーガンは言葉を尽くして父への愛情を表現するが、三女のコーディリアだけは軽々しい表現を慎む。それを自身への裏切りと取ったリア王は激怒し、コーディリアを身一つで嫁ぎ先であるフランス王のもとに追放。ゴネリルとリーガンだけに、自らの老後をそこで過ごすことを条件に、王国を分かち与える。しかし長女と次女はリア王を虐げ、裏切られた王は狂気にさいなまれて荒野をさまよい、いったんは、イギリスに進軍してきたフランス王のもとに身を寄せるが・・・・・・。
あまりにも有名な「裏切りの物語」である。これに、王臣グロスターと長男エドガー、次男エドマンドの物語が合わせ鏡のように配置され、二つの「信頼と裏切りの物語」が、らせん状に絡まりあって進行していく。そこには、およそ救いというものがまるで感じられない。次男エドマンドの謀略にはまったエドガーは追放されて乞食同然となり、グロスターは目を潰された上で荒野をさまよい、ついには断崖から落下する。リア王は狂気にさいなまれ、献身的に父である王を助けたコーディリアは、地下牢で絞殺される運命となる。すべての献身は報われず、すべての忠実は凄惨な結果で終わり、すべての裏切りは成就する。
狂気、貧困、失明、死と、まさに悲劇のオンパレード、悲劇の陳列棚である。その中に一瞬、人間と世界の本質を照らす稲光のような洞察が走る。繰り返しになるが、まさにおそるべき悲劇。それ以上は言いようがない一冊である。