【243冊目】横山秀夫「ルパンの消息」
- 作者: 横山秀夫
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2005/05/20
- メディア: 新書
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今を時めく横山秀夫の「幻の処女作」。作家デビューの「陰の季節」が98年だから、それより7年前の記者時代に書かれた作品を一部改稿したそうである。
うーん。つたないことはつたないし、いろいろぎこちなくて読んでいて歯がゆいところはある。その後の横山氏の傑作の連打(「動機」「半落ち」「クライマーズ・ハイ」「出口のない海」「震度0」等等)に比べてしまえば、確かに小説のクオリティは数段落ちるのかな、というのが正直な感想。しかしその分、小説に対する意欲や熱意の強さがぎっしりと詰まっており、その後の作品でネタとして再登場している部分もあったりして、横山秀夫ファンとしては外せない1冊である。
それと、その後の作品の多くが警察内部の組織の軋轢や人間ドラマをメインに扱っているのに対し、事件の解明を素朴に追っているところが逆に新鮮。時効完成まで24時間というタイムリミットの設定で作品全体に緊張感を与えるところ、現在の警察での捜査状況と、「ルパン作戦」が決行された15年前がパラレルで進行し、ラストで一気に結びつくところ、最後に用意された急転直下のどんでん返しの巧妙さなどは、作家デビュー前とは思えないセンスである。ただ個人的には、実在の事件である「三億円事件」を絡ませるのはちょっと興醒め。このあたりは人によるのだろうが、現実は現実、小説は小説だと思うので、他に何らかの真相があったであろう事件をこういうふうに小説内で「解決」してしまうのはどうなんだろうか。まあ、他にも三億円事件の出てくる小説はいくつかあるので、ミステリ小説にとってはひとつのロマンなのかもしれないが。