自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【164冊目】後藤和子・福原義春編著「市民活動論」

一昔前の市民運動の中心は、行政や政治への抗議運動だったように思うが、昨今はすっかり様変わりし、時には行政ともパートナーシップを結びながら、主体的に公的役割を担う存在となっているように思われる。本書はそうした現代の「市民活動」について、主として理論面から考察するものとなっている。NPOについての議論が中心であり、「公共」部門に対するNPOの位置付けなど存在意義を問うところからはじまって、管理運営面や資金調達などのノウハウ面も言及されている。また、企業メセナフィランソロピーなどについても掘り下げた記述がなされている。

「官=公」という図式が必ずしも成立しないのはもはや常識の感があるが、では新たな担い手としてどのような存在がありうるか。また、これまでどおり行政が主体となるとしても、どのように外部団体との協働関係をつくりあげ、あるいはその手法を取り入れるか。そのあたりについてはいまだに試行錯誤が続いているところである。本書はそうした問題に対するひとつのガイドラインであり、自治体職員としてもいろいろ参考になる点が多い。もっとも、著者の専門分野の関係もあろうが、本書で主に対象となっている行政分野は文化・芸術関係であり、創造的部門に対する市民活動論が主体である。そのため、実際にはNPOやボランティア活動のうち大きな割合を占めるであろう福祉・介護分野などについての記述が薄い感じがした。

なお個人的な感想としては、理論面も重要だが、やはり具体例が面白い。特に参考となる点が多かったのが、東京都写真美術館の取り組みに関する記載である。これは市民活動ではなく都の財団による運営であるが、本書の編著者である福原義春氏の就任後、どのように運営の改善を図り、入館者数をわずか数年で2.7倍に押し上げたか。また、その過程で、単に利用者に媚びるのではなく、高度で専門的な企画・展示を織り込み啓発を行いつつ「シネマコンプレックス」ばりの「ミュージアムコンプレックス」として複合的な企画展示を行うという方法がとられており、美術館としての水準の高さと入館者数の上昇(さらには独自の資金調達)を両立させているのである。行政の直営施設においても範とすべき点が多い。