【163冊目】山本一力「家族力」
- 作者: 山本一力
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2006/09
- メディア: 文庫
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「家族」を中心に語った自伝的エッセイである。
さまざまな雑誌に掲載されたものを集めたため内容に重複はあるが、著者の両親について、生い立ちから事業の失敗、離婚など波乱万丈の半生を赤裸々に語っている。著者が苦労人であることは知っていたが、これほどとは思わなかった。しかも、自分の失敗や恥ずかしい行いなど、書かずにごまかしても分からないだろうに、著者は正面から向かい合い、逃げずに書きとどめている。そこに、過去と向き合うという強い覚悟を感じる。
また、著者が住んでいる江東区富岡界隈での人情のあたたかさにも触れられている。特に、直木賞をもらっててんてこ舞いのところに、さりげなく示される気遣いのすばらしさ。東京という都会にありながら、昔ながらの人情がいまだ濃密に残っている。そして、その機微を的確に感じ取り、感謝できる感性を、著者のほうも持っている。そんな人間関係がしっかりと息づいていることに、下町の公務員としてはなんだか嬉しくなってしまう。もっとも、それは役所が何かしたからというわけではなく、住民の方々が時代の激しい流れの中でしっかりとそういう大切なものを守ってきたがためにほかならないのであって、間違っても勘違いをしてはならんのあるが。
それはともかく、「家族力」として著者が言っているのは、個人主義が横溢する今だからこそ、家族が一致団結してコトにあたればできないことはない、ということである。そして、その基礎になるのは、普段からの家族関係であり、特に不在がちな父親の存在感である。そのあたりは、著者自身の父親が博打で身代をつぶすなどかなり滅茶苦茶だったらしいが、にもかかわらず母親が最後まで父のことを悪く言わなかった、という実例があげられている。なかなかできることではないが、そういう中で育てられたからこそ今の作家・山本一力があるのであろう。