【133冊目】中沢新一「人類最古の哲学 カイエ・ソバージュⅠ」

人類最古の哲学 カイエ・ソバージュ(1) (講談社選書メチエ)
- 作者: 中沢新一
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2002/01/10
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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中沢氏の講義録シリーズ1巻目。神話をテーマとしている。
人類の歴史のうちほとんどは無文字時代であった。その無文字時代に、口承で、変容を加えられつつ伝えられ、語られていたのが神話である。現在、神話といえば単なる荒唐無稽なおとぎ話であり、単なる古い物語程度にしか考えられていないと思われるが、本書はフレイザーやレヴィ・ストロースらの業績を踏まえつつ、神話的思考の意義や神話のもつ深みや豊穣さを再評価しつつ紹介している。
特に、本書の白眉といえるのがシンデレラ物語にみる神話的要素である。有名なシンデレラ物語には数々のバリエーションがあるが(なんと、最も古いものは中国にあり、南方熊楠がこれを見出したという)、それらが何を共通する要素としてもち、どこが変容したのか、なぜそうした変容が起こったのかなど、詳しい中身についてはまったく知らなかった。本書ではシンデレラを「生と死」「高貴な者と卑しい者」等の仲介者と位置づけ、物語に登場するさまざまなアイテムと関連付けながら、シンデレラが徹底的に神話的仲介者として意味づけられ、機能づけられていることを明らかにしている。特に「片方のガラスの靴が脱げた」という事象の意味合いをオイディプス王の悲劇と重ね合わせつつ論じるくだりは、背筋が寒くなるほどエキサイティングである。
ほかにも、宗教や哲学と異なり、神話が現実から足を離さず、具体的で感覚的なことばによって語られること、その思考形態の原型は変容を加えられつつ現代人の思考の奥底にまで残っていることなどが指摘される。そこに息づいているのはまぎれもなく「野生の思考」であり、きわめてするどい感覚的思考である。多彩な具体例をまじえて神話というものの面白さを伝えてくれる本。