自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【134冊目】本間義人「地域再生の条件」

地域再生の条件 (岩波新書)

地域再生の条件 (岩波新書)

さまざまな地域における地域再生の具体例を通して、衰退する地域社会の再生について論じた本。

多くのケースが提示されているが、共通しているのは国の旗振りに同調せず、地域の実情に即した個性的な地域再生策を立ち上げていることであろう。うまくいっている自治体は、どこも地場産業、豊かな自然、歴史や伝統など、一見ありふれた地元の「地域資源」を活用している。とはいっても、単にこれまであったものをそのまま引っ張ってきているのではない。そこには、既存の地域資源を「使える」かたちにアレンジし、あるいは他の施策と組み合わせる知恵と工夫があるのであって、逆に言えばそうした地域資源の再発見とアレンジメントの能力が自治体には問われているのだといえる。

一方、国が主導するハード中心の施策誘導に付和雷同し、横並びの施策に甘んじた自治体、あるいは近隣自治体の施策をそのまま猿真似したり、地域資源を見出すことなく、その地域に何の関係もない施設や施策を人為的に作っている自治体は、いずれも依然として地域衰退から脱出できないでいる。また、独自施策であっても、住民の発意や支持を欠いたまま、首長のトップダウンで展開しようとしたところは、それが先進的な施策であればあるほど、なかなかうまくいっていないようである。中身がよければうまくいくとわれわれ行政職員は思いがちであるが、実は、施策内容の優劣もさることながら、それが地域に根ざし、地域住民に根付いたものであるか否かという側面が思いのほか重要であることがうかがえる。地域再生の勘所はそのあたりにあるようである。

地域再生にはただひとつの正解はない。大事なのは他に流されず、自らの地域を知り、住民の意見を尊重し、要するに自分の地域に目を向け続けることなのだと思う。国や他自治体のさまざまな情報が飛び交う中で、こうした視点を持ち続けることは簡単ではないが、その重要さは本書で繰り返し強調されているとおりである。コンパクトだが重要な示唆に満ちた、地域再生の入門書である。