自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【13冊目】木佐茂男編「〈まちづくり権〉への挑戦」

「まちづくり権」への挑戦―日田市場外車券売場訴訟を追う

「まちづくり権」への挑戦―日田市場外車券売場訴訟を追う

副題は「日田市場外車券売場訴訟を追う」。日田市という大分の一自治体が国を提訴するという異例の訴訟を、編者が教授をつとめる九州大学法学部行政法ゼミで取り上げた、その共同レポートがベースになっている本。

まず思ったのは、「うらやましい!」ということ。このような活きた素材をテーマに選び、存分に追求できたことは、学生としては最高の幸運であったと思う。そして、現在進行中の事実や地方自治理論を丁寧に積み上げ、「まちづくり権」という権利についてしっかりと考察を深めているところもすばらしい。

机上の学問ではなかなか意識できないであろう「地方分権」の重みと苦難を、彼らは心底知ることができたのではないだろうか。 地方自治というテーマにとって、この本は応用編、あるいは実用編にあたると思われる。

しかし、実際の訴訟であるからこそ、国と地方の意識のへだたりや現行の法制の問題点、地方自治の理念と現実がかえってあざやかに浮かび上がったことも確か。そもそも、このように問題点を先鋭化・明確化し、社会に提示することこそが、司法の場で争うことの意義なのかもしれないと思った。