【10冊目】大塚久雄「社会科学の方法」
- 作者: 大塚久雄
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1966/09/20
- メディア: 新書
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戦後日本を代表する知性のひとりといわれる著者が実際に行った講演に手を入れた本であり、「社会科学の方法」「経済人ロビンソン・クルーソウ」「ヴェーバーの『儒教とピュウリタニズム』をめぐって」「ヴェーバー社会学における思想と経済」の4本の論説が掲載されている。
初版はなんと1966年となんと40年前。しかし、内容がまったく古びていないことにまず驚かされる。明晰な論理と巧みな比喩で、社会科学の複雑な迷路を通り抜ける手際は、さすがというべきだろう。
特に巧妙なのは、「マルクスとウェーバー」「デフォーとスウィフト」「儒教とピューリタニズム」(これはウェーバーによる比較の紹介だが)など、他との比較によってものごとの本質を際立たせる手法。特に、「下部構造(経済)が上部構造(文化・政治等)を規定する」とするマルクスの思想と比較することで、理念(思想)と利害追求(経済的要因)の相互作用による社会の変化というウェーバーの思想を鮮やかに描き出す手並みは、見事というほかはない。
ちなみに、ウェーバーの世界認識の基礎理論のひとつは、「理念によって作られた『世界像』は、きわめてしばしば転轍手として軌道を決定し、そしてその〔理念が決定した〕 軌道に沿って利害のダイナミックスが人間の行為を押し動かしてきた」というものだという。簡明ではあるが実に奥深い言葉である。
そして、政治や行政についても現在の研究の土台となっている理論を打ち立ててきたウェーバーの思考過程はいかにして生まれてきたか、戦後の日本にとってそれが意味するものとは何かという大問題に対するひとつの回答が、本書には示されているといえるだろう。名著である。