自治体職員の読書ノート

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【2164冊目】高橋源一郎『読んじゃいなよ!』

 

 
明治学院大学「高橋ゼミ」のやり取りを再現した一冊。鷲田清一『哲学の使い方』、長谷部恭男憲法とは何か』、伊藤比呂美女の一生』の3冊の岩波新書を取り上げ、著者に実際に来てもらって対談、対話をするという、とんでもなく贅沢な授業の記録である。

鷲田清一との「哲学教室」では、「哲学の本は二割分かったら結構行けている」という発言もあったりしてちょっと安心するのだが、一方で「絶対手放してはいけないもの、見失ってはいけないものと、あればあるに越したことはないけれど、なくてもいいものと、端的になくていいもの、そして最後に絶対あってはいけないこと」を区別できる眼力をもつということが「哲学する」ことである、というような、これまで聞いたことも読んだこともないが深く納得できるコメントもあったりして、いきなり目からウロコがボロボロ落ちる。「問題とは解決、除去されなければならないもの、課題とはそれに取り組むこと自体に意味があるもの」という指摘も面白い。

長谷部恭男との「憲法教室」は、安易な憲法礼讃、デモクラシー礼讃ではなく、その危険性にもきっちり触れられているのがよかった。徴兵制を敷いて国民を戦争に動員するために社会福祉政策が生まれたのだから、今の世の中で社会福祉が後退するのは必然である、とか、「憲法は良識に戻るためのもの」といった指摘など、唸らされるものがあった。だが一番びっくりしたのは、憲法9条が文字通りの意味で受け取るとなると特定の価値観をすべての国民に押しつけていることになり、立憲主義と衝突する(だから解釈が必要になる)というくだり。う~ん、これは、気づかなかった。

そしてトリが、伊藤比呂美との「人生相談教室」だ。実はこれが一番ぶっとんでいて面白く、『女の一生』も絶対読もうと心に決めたのだが、特に学生の「病んだ」問いに対する伊藤比呂美の答えが絶妙。特に「何をしてもつまらない」という学生に対するくだりが素晴らしいので、これはそのまま引用してみたい。

「初めからつまらないんだっていう感想を持っちゃ駄目。そうすると、捨てちゃって、それっきりだからね。貪欲になって、面白いものを探してやろうっていう気持ちがないと駄目なんですよ。若い人たちって、本を読んでいても、つまらないの一言でもう閉じちゃうのね。読むコツは違う。読むコツっていうのは、この本の中に、一言でいいから、自分の、あれ? って思う言葉を見つけて、そこから入り込んでいくことなのね。全体を読んでも、もちろんつまらない。つまらなくていい。だいたい、あなた方は何も考えていないし、教養もないし、そんな人たちが、我々が一所懸命作ったものを分かるわけがないの、初めから。でも、つまらないところから見つけていくっていうその努力は、人生の上でも有効だと思う。これもつまらない。あれもつまらない。あいつもつまらない。こいつもつまらない。でもその中の何かはきっと心にひっかかる。あ、もう少し知りたいなって思う。それで近づく。人ならしゃべる。そのバックグラウンドの文化はどうかなと。バックグラウンドのヒストリーはどうかなって知ってみる。これだと思いますね」

 



……高校生や大学生の頃の自分に、聞かせてやりたい。