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自治体職員の読書ノート

仕事は福祉系。読書は雑食性。業務連絡はnsa59871atmarkexcite.co.jpへどうぞ。

【1932冊目】絲山秋子『海の仙人』

 

海の仙人 (新潮文庫)

海の仙人 (新潮文庫)

 

 

よい小説だった。せつなさが心に沁み渡った。

想いを寄せる相手は、私を振り向いてくれない。相思相愛の相手がいても、子どもの頃のできごとがトラウマになって、セックスができない。過去を克服しようと姉に会おうとしても、冷たく追い払われる。

人とつながっていても、人はつまるところ、独りである。そんなあきらめと哀しみが、この短い小説を貫いている。面白いのは、そこに人間ならぬ風変わりな「ファンタジー」という神を介在させたところ。人間だけでは行き詰まり兼ねない孤独と孤独の関係が、この「神様」のお蔭で、どこか風穴が開いている。

とはいえ、この神様はほとんど何もしない。ただ居るだけ。でもそれで、不思議と何かが変わる。でも、神様って、実はそういうものかもしれない。

「役に立たないが故に神なのだ」

「役に立たん神さん拾ってしもたわ」という河野に、ファンタジーはこう言い放つ。名言であろう。

敦賀の海や空の描写が美しい。会話は弾むようなリズム感がある。言葉が活きている。本当に、よい小説だった。