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自治体職員の読書ノート

仕事は福祉系。読書は雑食性。業務連絡はnsa59871atmarkexcite.co.jpへどうぞ。

【1887冊目】ヤマザキマリ、とり・みき『プリニウス』

 

プリニウス (1) (バンチコミックス45プレミアム)

プリニウス (1) (バンチコミックス45プレミアム)

 

 

 

プリニウス 2 (バンチコミックス45プレミアム)

プリニウス 2 (バンチコミックス45プレミアム)

 

 

プリニウスをマンガにするという発想に、まずびっくり。よくぞこんな「地味」な主人公を選んだものだ。

博物学とは、自然界に存在するものすべてを対象とする学問だ。プリニウス古代ローマを代表する、というか、古今東西の世界を代表する博物学者のひとり。著書『博物誌』は、長きにわたり博物学のバイブルだった。

草花や動物から、地震や火山のような自然災害、さらには半魚人やキマイラのような想像上の生物まで、あらゆるものが博物学の対象となる。そこで求められるのは、飽くなき好奇心、執拗な記録、そして膨大な知識を瞬時に目の前の事象に結びつけ、見えるものと見えないものの間に補助線を引いていく想像力。本書の読みどころのひとつは、そんな「生きた知」のありようだ。

だが、それだけでは「マンガ」として読ませるには不十分だ。そこで本書は、皇帝ネロというもうひとつの中心をつくり出す。暴君として知られるネロの横暴と、それに振り回されつつ毅然として応じるプリニウスの間の緊張感は、今後の嵐の展開を予想させ、目が離せない。

そしてもうひとつ、本書ではプリニウス自身のキャラクターがなんとも面白い。火山が目の前で爆発しているのに呑気にウンチクを語り、しかもゆっくりと風呂に浸かるというマイペースぶり。目新しいモノが見つかるとテコでも動かず、皇帝ネロに呼び出されているにも関わらず「マグロを食べるまではカティアから動かん!!」なんて叫ぶあたりなど、なかなか香ばしい変人ぶりだ。博物学に取り憑かれて変人になったのか、変人だからこそ博物学なんてものに魅入られたのか。

絵のことも少し。本書は二人のマンガ家の合作という、めずらしいスタイルをとっている。ヤマザキマリが人物を、とり・みきが背景を描く。こうしたやり方を取ったことでなんらかの相乗効果があったのか、とにかく1コマあたりの密度と濃度がハンパではない。特に首都ローマの、酔っ払いがうろつき、売春婦がたむろし、路地裏では犬が人間の死体を食っているという、すさんだ光景のリアリティは圧巻。

『テルマエ・ロマエ』のようなお笑い要素は少ないが、重厚な「読ませるマンガ」として歴史に残るであろう一冊だ。プリニウスに付き添う若き口述筆記官エウクレスと、口の利けない美少女の娼婦の恋も始まりそうで、一方ではネロがいよいよ暴君の牙をむき出しかけており、陳腐な言い方だが、今後の展開に目が離せない。