自治体職員の読書ノート

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【1647冊目】スティーヴン・キング『書くことについて』

書くことについて (小学館文庫)

書くことについて (小学館文庫)

キング流「小説作法」(←このタイトルで以前邦訳されたらしい)。「履歴書」と題した自伝にはじまり、書くための具体的なノウハウ、1999年に遭遇した事故の顛末(なんと交通事故に遭ってあやうく死ぬところだったらしい)、さらに巻末にはキング・セレクションのブックリストまでついていて、お得感満点の一冊だ。

まず、冒頭の自伝がべらぼうに面白い。兄デイヴとの悪ふざけの日々に始まり、初めての作品投稿のこと(SF雑誌だったらしい)、不採用作品の山を築いた日々、最愛の妻タビサとの結婚、貧しい高校教師の日々、そして『キャリー』の誕生……と、幼いキングが作家になるまで(そして作家として名を成してからアル中とヤク中になるまで)が、キング流のユーモアたっぷりの調子でテンポよく綴られる。

中で印象的だったのは、10歳頃までキングの家にはテレビがなかった、ということ。キングはこう書いている。

「考えようによっては、私は選ばれた稀少なグループのひとりだ。毎日テレビの馬鹿番組を見ながら過ごすようになるまえに、読むことや書くことを学んだアメリカ人作家は、そんなに多くはあるまい」(p.39)


そしてもうひとつ。高校時代、リスボンの週刊新聞にスポーツ観戦記事を書く機会を得たキングに、編集長のジョン・グールドが言った言葉が良かった。極端かもしれないが、本書の後半部分でキングが詳細に述べている小説作法は、この一言に発していると言えなくもない。

「何かを書くときには、自分にストーリーを語って聞かせればいい。手直しをするときにいちばん大事なのは、余計な言葉をすべて削ることだ」(p.72)


さて、自伝の次は、具体的な作家としてのノウハウと心構え。作家志望者向けの内容なので、必ずしも全員の参考にはならないだろうが、フィクションに限らず文章を書く人間なら知っておかなければならないことも相当に盛り込まれているので要注意だ。いわばキング流・文章術の究極奥義リストである。

「文章を書くときに避けなければならないのは、語彙の乏しさを恥じて、いたずらに言葉を飾ろうとすることである。それは飼っているペットに夜会服を着せるようなものだ」(p.156)

「副詞はタンポポである。芝生のなかに一輪ぽつりと咲いていたら、かわいらしい。だが、抜かずに放っておくと、次の日、花は五つになり、その次の日は五十になり、そのまた次の日には……というわけで、いつのまにか芝地はタンポポでいっぱいになってしまう。タンポポ雑草だと気がついたときは、ゲッ! もう手遅れだ」(p.167)

「三流が二流になることはできないし、一流が超一流になることもできないが、懸命に努力し、研鑽を積み、しかるべきときにしかるべき助力を得られたら、二流が一流になることは可能だ」(p.188〜189)

「作家になりたいのなら、絶対にしなければならないことがふたつある。たくさん読み、たくさん書くことだ」(p.192)

「ストーリーは自然にできていくというのが私の基本的な考えだ。作家がしなければならないのは、ストーリーに成長の場を与え、それを文字にすることなのである」(p.217)

「あなたが初心者なら、少なくとも二稿まで書くことを強く勧めたい。まずは書斎のドアを閉めて書き、次はドアをあけて書く」(p.280)

「公式―二次稿=一次稿マイナス10%」(p.298。10代の頃に著者が受け取った不採用通知に書かれていた言葉だそうだ)

「ものを書くのは、金を稼ぐためでも、有名になるためでも、もてるためでも、セックスの相手を見つけるためでも、友人をつくるためでもない。一言でいうなら、読む者の人生を豊かにし、同時に書く者の人生も豊かにするためだ。立ちあがり、力をつけ、乗り越えるためだ。幸せになるためだ」(p.358)


う〜ん、絞り込んだつもりだったんだが、けっこう多くなってしまった。まあ、上に挙げたのはあくまで「骨」にすぎない。実際には、ここに大量の実例と解説、そしてユーモアがちりばめられている。そして、本書の醍醐味はその周りについている「肉」にこそあるのだから、もし気になる方がおられれば、本書を手に取るべきだろう。

本当は交通事故の顛末のこともちょっと書きたかったんだが、引用が思ったより長くなってしまったので、このへんにしておく。一言だけ言っておくと、本書は場合によっては、キングの「未完の遺書」になってしまったかもしれなかった一冊なのだ。そう思って読むと、また味わいもひとしおではないだろうか。

ちなみに個人的には、こないだ読んだ『ザ・スタンド』の舞台裏もいろいろ書いてあって楽しめた。特に数週間にわたり行き詰まったところと、その解決のくだりにはうならされた(ただ、この解決のつけかたに、読んでいてかなりショックと違和感を感じたのも事実)。

文章に磨きをかけたい人は、例外なく読んでおいたほうがいい一冊だ。英語と日本語、アメリカと日本の違いはあるものの、参考になる点はあまりにも多い。オススメ。

小説作法 キャリー (新潮文庫) ザ・スタンド 1 (文春文庫)