自治体職員の読書ノート

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【1469冊目】小畑健・大場つぐみ『BAKUMAN』

バクマン。 1 (ジャンプコミックス)

バクマン。 1 (ジャンプコミックス)

今さらと言いたければ言いなさい。このトシになって、「ジャンプ」のマンガにハマるとは思わなかった。続きが読みたくてマンガ喫茶に通ってしまった。

ストーリーは「ジャンプ」らしく非常にシンプル。「サイコー」と「シュージン」のコンビによる漫画家サクセス・ストーリーである。小畑健の精密な画(これを週刊ペースで描いているというのが信じられない)と、大場つぐみの絶妙なストーリーテリングがぴったり噛み合って、非常に完成度の高い作品になっている。

加えて設定がおもしろい。サイコーとシュージンが持ち込みをするのは、なんと『週刊少年ジャンプ』。つまりこのマンガ、週刊少年ジャンプに掲載されながら、その「ジャンプ」そのものを舞台にしてしまったという究極のメタ・マンガなのだ。

類書に藤子不二雄Aの『まんが道』や、編集者サイドでは土田世紀の『編集王』などがあるにはあるが、ここまでリアルを徹底してはいなかった。なんといっても、編集長をはじめ、実在の編集者が実名でバンバン登場するのである。

ジャンプ独特の「アンケート至上主義」や「専属契約制度」もしっかり登場しており、マンガ業界の裏側を知るには絶好の教材となっている。編集者側の葛藤や悩み、編集部内の「オトナの世界」も丁寧に描かれており、私としてはこちらの方にも共感するところが多かった。

だが本書が「リアル」なのは、単に業界ネタが詰まっているというだけではない。むしろマンガという「作品」がどのようにして生まれてくるかという、創造の現場が正面から描かれているところがスゴイのだ。アイディアが生まれるプロセス、作者と担当編集者の相互作用の重要さはもとより、王道と邪道、ギャグとシリアス、売れるマンガの条件、メディアミックス等々、マンガの創造の現場で求められるありとあらゆる要素がみっしりと詰まっている。

最初から「サイコー」と「シュージン」がずば抜けた才能の持ち主として描かれているため、「凡人」なら苦労しそうなキホンの部分がさらっと飛ばされているが、これはこれで「リアル」であると見るべきなのだろう。ジャンプに限らず、ある程度最初から「圧倒的な才能」がないと、そもそも勝負の土俵に乗れないのがこの世界なのだから。むしろその「圧倒的な才能」の、さらにその先がどのように拓かれていくかというところが垣間見えたのが収穫だった。

創作の秘密を書いた本はいろいろあるが、このマンガほどの充実はなかなかないのが現状だ。しかもそれが教科書的な解説ではなく、具体的な創造のプロセスそのままを見ることができるのだ。その射程は「才能にあった作品、あわない作品」「描きたいものを描くか、言われたものを描くか」といった、世のクリエイターすべてが抱える悩みと矛盾にまで及んでいる。自身も卓越したクリエイターである小畑健大場つぐみでなければ描けない領域であろう。

全20巻。マンガ業界のオモテとウラを知りたい人、そして創造の秘密の一端に手を触れたい人は、必読だ。それにしても、編集会議の内幕からアンケートシステムの裏側までを暴露したこの作品を4年弱にわたり掲載した週刊少年ジャンプは、エライと思う。このへんが実力誌の底力なのだろうか。

まんが道 (1) (中公文庫―コミック版) 編集王 1 あしたのジョー (BIG SPIRITS COMICS)