【1962冊目】大沢在昌『鮫島の貌』
「新宿鮫」シリーズの短編集。
この人の短編って、あまり読んだ記憶がなかったのだが、なかなか、うまい。それほど技巧的ではないが、さりげない描写やセリフが活きていて、短いストーリーと場面のなかに「新宿鮫」の世界観が鮮やかに再現されている。いよいよこれから、というところでスパッと終わる潔さも魅力的。
手すさび、と言えば手すさびなのだろう。だが、それでもこれだけのクオリティが出るところに、この作家の底力を感じる。マンガとのコラボも2作入っている(「エンジェル・ハート」と「こち亀」)が、どっちの世界観を壊すこともなく、相手へのリスペクトを払いながら見事に融合していて、本当にうまいと思う。
一人称モノに面白い作品が多かった。「雷鳴」はちょっとした伏線の使い方が絶妙。「再会」はいろいろ考えさせられる大人の味。「五十階で待つ」は、ドイルの「赤毛連盟」を思わせる、ちょっと笑える一篇。ただし、どの作品も「新宿鮫」メインシリーズを読んでいないとあまり楽しめないのではないか。ちなみに「霊園の男」は「新宿鮫9 狼花」の後日談だったらしいが、私はこれは読んでいなかったので、イマイチ乗れなかった。